Barros-Keiコラムとは?

フィリピンにおける裁判手続きや結婚手続きなどで多くの誤認情報をネットで見かけます。またフィリピン人からの古い口コミ情報を信じている人も沢山います。以前日本のかなり手広くやっている行政書士グループ会社ウェブサイトに、当社の文章を丸々パクられたことがあります。責任者にすぐにクレームを出し全て削除させました。たとえ肩書きが弁護士や行政書士であっても、日本にもフィリピンにも専門知識のない業者は数多くいます。しかし知識や情報を持っていない依頼者の方たちは、その肩書きを信じて頼るしかありません。そういう現状から本コラムが、これからフィリピンで何かアクションを起こそうとする方たちのために、少しでも役立つものになればいいと思います。また立派な肩書きを持つ人たちは、それに恥じないようもう少ししっかりと勉強してから情報を発信すべきです。そもそも知識や経験というものは、フィリピンに長く在住しているから自動的に得られるというものでは絶対にありません。同じようなレベルの人間としか交流がないのであれば、たとえ50年在住していようとも、濃い日々を過ごした人の1ヶ月にも及ばないことがあるのです。当コラムの目的はそれらを正し正確且つ最新の情報を伝えることにあります。
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2014年12月20日土曜日

フィリピンの裁判で失敗しないために

偽造文書、偽装裁判などの被害について今まで記事にしてきましたが、今回は離婚承認裁判や婚姻無効裁判を依頼するにあたり、「失敗しない/失敗するリスクを減らすためにはどうすればいいのか」というテーマでお話します。

1.フィリピン人の伝手では探さない。
フィリピン人のネットワークを使っても情報が古かったり不明確なものが多いので安易に信用しないことです。裁判手続は年々厳格化しており「私のときはこうだった」などという情報は全く役に立ちません。ここで決めてしまうような方は100%失敗すると断言します。

ただ頭ごなしに否定してしまうとフィリピン人の立場やプライドもありますし、それが婚約者の伝手であったならばその人間関係に支障をきたすこともあるでしょう。このような場合でも自らWebサーチで情報を得る作業を続けながら、任せている振りをして最終決定は自分がするという鷹揚な構えでいることです。少なくともフィリピン人に丸投げするようなことは愚挙であることを認識しておくべきです。

2.日本の行政書士でも無条件には信用しない。
行政書士にはネットワークを構築し組織化して業務を行っているところも多くなってきています。掲載されている文章をよく読むことが重要です。得てして行政書士には勉強不足で文章力が欠ける人間が多いのでホームページが立派でも文章内容がスカスカというものも見受けられます。ホームページだけでなくブログでもパクリが多くあります。

「裁判をしなくても結婚できる方法を発見しました」などという文言掲載しているのも見掛けますが、大体にそんなことを「発見」という言葉を使うことからして日本語能力のなさを露呈していますし、コンテンツのもって行き方が詐欺商法のウェブサイトに似通った順序になっています。所謂読み手に質問を投げかけながら答えも言っている誘導サイトです。行政書士の殆どはマクロな定性情報だけしか持ち合わせていないのです。

事例やQ&Aも掲載しているようなホームページを熟読してここなら頼めるかなという所があれば事前にある程度の裁判知識や情報を仕入れておいてから電話で問い合わせをしてみると良いでしょう。そこで納得できる説明を聞くことができれば契約していいと思います。ただし必ず契約書内容を確認し不明な点は問い合わせることが重要なのは云うまでもありません。

メールで問い合わせをするのが相手が何を言ったのか証拠として残るので後々のためには最善の策です。ただし返信に日数が必要以上にかかるのは対象外とします。あとは返信内容。やはり納得ができるようなものかどうかです。中身がなければ対象外とします。

なぜこのようなことが必要なのかと言えば、日本の行政書士はフィリピンで訴訟を起こせる権限はもちろんありませんが、結局はフィリピンの業者や弁護士の伝手を頼り仕事を振るだけだからです。法廷の証言台に立ったこともなければ傍聴したことさえないのです。当然英語力も必要になります。問い合わせが来ても詳細に説明できるはずがありません。

訴状をよく読み、判決文や審決証明もしっかりと読んでいる人ならば、内容はある程度は把握できるでしょうし、原告弁護士と進捗について常に連絡を取り合っている人であれば、裁判手続の流れが理解できてくるはずです。依頼を決定するまでの重要点はそこにあるのです。

数は多くはないですが職業意識が高く、自らがフィリピンに何度も足を運んで裁判所を訪れている行政書士の方もいます。日本の行政書士に依頼するならばこのように努力を惜しまない方を選ぶべきでしょう。

肩書きが行政書士や弁護士であってもフィリピンでは無力です。彼らは単なる仲介者に過ぎないこと、仲介者がいるということはその分費用がかかるということ、フィリピン人関係者をマネージメントできる人間がいなければ手続がいい加減になることを忘れてはいけません。そういう人間はメールでの言葉遣いや言い回しでボロを出しますので判断できると思います。

3.英語力に自信があるなら自力でフィリピンの弁護士を探す。
少なくとも英語である程度理解できるならば自分で探してみる努力をすべきです。直接話しができてメールのやり取りができる弁護士が見つかれば、会話を繰り返すうちに弁護士の資質も分かってきます。知識や経験がない弁護士は質問を繰り返していると、面倒臭がり返答してこなくなったり信じることができないのかと怒ったりします。

信用できないのかというのはフィリピン人が日本人を謀るときに使う得意手口ですので、そういう言葉を吐いた瞬間に信用度ゼロと判断すべきです。そして大体はこの時点で単に金目当てのバカかどうか見当がつきます。

4.契約で裁判手続のどこまでカバーしているのか確認する。
意外と知られていないのですが実はこれが一番重要なことです。

弁護士の業務は提訴状準備に始まり公判への出廷、そして判決文取得までです。しかしフォローアップがこれだけでは終わったことにはなりません。再婚を目的とするならばフィリピン統計庁(PSA/旧NSO)に注釈付の前婚姻証明書を取得するまではこの手続が終わったわけではないのです。

しかも判決文取得までの仕事に支払う弁護士報酬(アトーニーズ・フィー/Attorney's Fee)は20万ペソが相場で、フリーランサーの弁護士ならば30万ペソまで請求してきます。

日本人が費用を聞くと全ての弁護士はこのAttrney's Feeを提示します。ここで多くの日本人の方はAttorney's Feeを裁判費用と勘違いしてしまいます。彼らはできる限り多くの付加報酬を得ようとしますから、裁判に関わる全ての手続費用、交通費、食費などの諸費用は別途に請求してきます。

現実としては、判決文が交付されてからが手続の最終段階となり、判決告示、法務局、検察総局の審査を経て審決証明及び登録命令取得手続、登録移管手続、4~5ヶ月かかった上でやっと注釈付前婚姻証明書を手にすることができるのです。

この最終段階の手続には弁護士は関わりません。彼らの仕事はその前で終わっているからです。それではこの手続は誰が行うのでしょうか?誰も行いませんし別途依頼すればまた費用がかかります。放置してもいつかは登録されますがそれが半年先か1年以上先のことになるかは誰にも責任が持てません。

私が一番重要と考えるのはそういった理由からです。そこまでを全てカバーしている契約が可能なところを前提に見極めなければなりません。

5.まとめ
今年の中頃からまたまた手続の期間が長引くようになりました。法務局や検察局、民事登録局が裁判所に判決文の真偽を確認する方法が一層厳格化されたからです。どういう機関での手続が厳格化され要件は何かについてはパクられるのでここでは言及しませんが、裁判手続というのは常にアップデートが必要であり、それは毎年数多くの事件を扱っていなければ分からないことなのです。

アップデートされた情報で対応できない弁護士がいたら、それは客がいない=金に困っている弁護士と考えて間違えありません。中には弁護士資格を更新する金もなく、案件を取ると他の弁護士に任せてしまう最悪な者もいるのが現実なのです。これでは仲介者と同じではありませんか?

手続の厳格化は偽装・偽装・不正手続が多くなったからに他ありません。また偽造・偽装・不正という馬鹿げたことをする90%以上は恥ずかしいことに日本人関係なのです。まともに取り組んでいる人間にとってこういう日本人たちの存在は迷惑以外の何者でもありません。彼らはフィリピンに在留していることだけをアドヴァンテージにし、さも何でも知っている振りをしている人間たちなのです。

こういう人間に任せてしまうと仲介者としての取り分も上乗せされ最終的にAttorney's Feeの1.5~2倍の費用がかかる結果となります。仲介者は厳密に言えばフィクサー/Fixerの範疇に入るのでアンチ・フィクサー法に抵触しています。日本の法律に関係ないフィリピンの裁判なので、広義に考えれば行政書士や弁護士だろうが内政干渉となりそこに報酬があればフィクサーと見做されます。もし滞在中に訴えられでもすれば身柄拘束や罰金ということも可能性ゼロではないことを知るべきです。

2年ほど前に日本の弁護士が離婚承認裁判に証人として出廷したのを傍聴しました。彼は英語が上手く話せないので通訳が付きました。しかし残念ながら日本の協議離婚制度を彼が説明し裁判官に納得してもらうことは土台無理な話でした。弁護士であろうと先ず英語が理解できない、そして何よりカトリックに基づくフィリピンの婚姻契約制度を理解していない日本人が証言台に立っても、無力な存在でしかないのです。

裁判手続はマネージメントがしっかりしていても思うに任せない進捗になることがあります。しかしそれに対し怒って督促を繰り返したりすれば、関係者を焦らせ偽造に走ることもあるので最悪の結果になってしまいます。裁判手続終了をただ待つ身の方々にとってはかなりの精神修練を強いられますが、進捗に一喜一憂せずにどっしりと構え何事にも動じない精神力が必要です。

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2014年12月12日金曜日

フィリピンの防災体制はどうなっているのか(その3)

今回最終回は、フィリピンの防災体制が今後どのようになっていくのか、というテーマで記事にします。

先ず最初に日本外務省及び在比日本大使館のウェブサイトにリリースされている情報です;
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2014年3月25日、フィリピン共和国首都マニラに於いて、卜部敏直駐フィリピン日本国大使とアルバート・デル・ロサリオ外務大臣との間で,環境・気候変動無償「メトロセブ水道区上水供給改善計画(11億6,500万円)」、テロ対策等治安無償「沿岸警備通信システム強化計画(11億5,200万円)」及び防災・災害復興支援無償「台風ヨランダ災害復旧・復興計画(46億円)」に関する交換公文の署名が行われた。

「メトロセブ水道区上水供給改善計画」は、日本の優れた中央監視制御装置(SCADA)システム等の導入支援をメトロセブ水道区の上水供給エリアにおいて実施し、リアルタイムでの給水状況の正確なモニタリングと水道施設の適切な運転管理体制の構築を図るものである。これにより、フィリピン政府が進めている地方拠点開発のためのインフラ整備促進に貢献するとともに、日本企業の有する優れた技術がフィリピン国内で普及することにより、日本企業のフィリピンへの展開の足がかりになることが期待される。

「沿岸警備通信システム強化計画」は、フィリピン沿岸警備隊の主要運用船舶及び新設管区本部(ルソン北東,ヴィサヤ東)等と本庁間の通信システム整備、及びセブ港周辺海域の船舶航行監視システムの構築を行うことにより、海上安全確保における対応能力の向上を図るものである。これにより、島嶼国であるフィリピン政府が進めている海上運輸交通の強化に貢献するとともに、かかる投資環境整備を通じて日本企業のフィリピンへの進出促進が期待される。

「台風ヨランダ災害復旧・復興計画」は、台風ヨランダの被災地域において、医療施設・学校・政府庁舎等の社会インフラや経済インフラ、防災インフラ等の早期復旧・復興(施設建設,機材調達)等につき優先度の高いものを支援することにより、被災地域の速やかな復旧・復興を図るものである。これにより、フィリピン政府が進めている災害に強い社会の形成に貢献するとともに、フィリピンの持続的経済成長及び日本との緊密な経済関係が維持・促進されることが期待される。

これらの協力を通じて、フィリピンの開発政策支援を図ると同時に、今後の日本企業の海外展開が促進されるなど、日本とフィリピンとの経済関係が一層強化されることが期待される。
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上記日本政府のODA政策が、インフラ整備関連及び災害地域の復旧・復興事業を最優先としていることは明白です。つまり現状フィリピンにあるインフラ整備事業に目処が付く当面の間は、フィリピンに対する防災支援政策は事後対策を対象としたものへの支援が大きくならざるを得ないということです。

以下は日本政府が2000年以来行ってきた防災対策及び事後対策の支援概要です;
2000年
第二次オルモック市洪水対策事業計画(22億円)
メトロマニラ洪水制御及び警報システム改善計画(11億円・沿岸警備通信システム強化計画)
2001年
アンガット川灌漑用調整ダム護床改修計画(13億円)
第2次地震・火山観測網整備計画

2003年
カガヤン灌漑施設改修計画(9億円)

2007年
第1期パンパンガ河及びアグノ河洪水予警報システム改善計画(8億円・防災・災害復興支援無償)
海上保安通信システム強化計画(6億円・テロ対策等治安無償)

2008年
気象レーダーシステム整備計画(0.2億円・詳細設計)
第2期パンパンガ河及びアグノ河洪水予警報システム改善計画(4億円・防災・災害復興支援無償)

2009年
気候変動による自然災害対処能力向上計画(15億円)
気象レーダーシステム整備計画(34億円)
カミギン島防災復旧計画(10億円)

2011年
広域防災システム整備計画(10億円)
マヨン火山周辺地域避難所整備計画(8億円)

2013年
沿岸警備通信システム強化計画(12億円)
台風ヨランダ災害復旧・復興計画(46億円)

2001年エストラーダ大統領に対する弾劾が成立し副大統領から昇格したアロヨ前大統領は、エストラーダ大統領任期の残り3年間、そして引き続き大統領選に立候補し当選した任期6年間を合わせた9年間でアロヨ政権の公金横領・流用、不正、収賄という体質から暗黒時代に突入しました。

2004年から2006年はODAゼロになっています。アロヨが国民の期待を裏切っていることが顕著になってきた時期でもあります。退任前の2009年には最後の利権を得ることと、国家予算の帳尻あわせのために思いつき外遊を繰り返し何とかODAをかき集めましたが、これは次期大統領への期待値の現れであり、諸外国からアロヨに三行半を突きつけられた表れなのです。このアロヨの晩年には日米を中心とした商社も最後の利権漁りに彼女を利用しようと多少ながらも本気になったのでしょう。任期切れ直前にはアロヨ政権時代の功績を称えるキャンペーンをメディアに強制し流していました。

任期終了とともに下院議員に立候補し当選、そして旗色が悪くなると国外逃亡を図ったが逮捕、現在は入院治療を理由としてどうにか収監を免れているだけのアロヨが牛耳ってきたこの9年間は、フィリピンの経済成長が完全に阻まれ、アロヨ一派だけが私腹を肥やす結果となり、国民にとっては全く無為な時であり、諸外国からは「アジアの病人」と揶揄される時代となりました。特に政権の晩年には諸外国からも経済援助を無視され、意味のない小さなプロジェクトを乱発し小銭着服に明け暮れた挙句に、信頼失墜を招いた責任は万死に値するものです。

アキノ大統領は、2010年大統領選でアロヨと同類の汚職候補である建設族ビリヤールを破り当選を果たしました。そして現在彼の汚職撲滅・インフラ整備という二大政策の効果によって、フィリピンの防災市場が再び輝きを取り戻しつつあるのは紛れもない事実なのです。

最近の外国企業が積極的に参入姿勢を見せている背景には、こういった現政権に対する大きな期待の現れと見ることができます。そして諸外国としても2016年に実施される大統領選挙の動向を注視しているのですが、汚職撲滅政策を地方行政、関係省庁の順に拡大し2013年からは上院・下院議員、現在は副大統領までに追及が及んでいることから、次期大統領選では現大統領の政策を継承する後継大統領が選出されるものという期待が大きいのです。

従って現政権の政策を継承し発展させることを第一に掲げる人物が次期大統領に当選すれば、PPPによる諸外国のインフラ事業投資がさらに加速化し、現況で毎年15~30%の成長が見込まれる防災市場は、国家予算の3~5%(現在0.5~0.6%)まで拡大していくものと考えています。私が2016年はフィリピンという国の将来を賭けた大統領選となると言った理由には、そういった背景があるのです。

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2014年12月10日水曜日

フィリピンの防災体制はどうなっているのか(その2)

2010年にマーケティングでPAGASAを訪問しヒアリングを行ったことがありますが、設備が脆弱でただのコールセンターのようでした。職員が5名程度で年度予算はないに等しいため、給与支払と設備メンテナンスで精一杯、天気図などはPhotoshopの海賊版を使用し手作業で行っていました。その様子はまるで塗り絵をしているようでしたが、私には笑えませんでした。

その当時は大統領選挙の最中にあり、職員に話題を振ると「アロヨみたいなのはもう勘弁。ヴィリヤールもビナイもバヤ二も汚職ばかり。だから重要な政府機関に予算が回って来ない」と嘆いていました。

アキノ大統領になってからは、日本から積極的な援助協力を得てサテライト・システムなども導入されたため、日本の気象庁と殆ど違いがないほどの精度でPAGASAも運営されています。これがアロヨのような汚職まみれの大統領だったならば、PAGASAも未だに塗り絵作業を強いられることになっていたかもしれません。

ここでフィリピンの防災対策予算について言及します:
国家防災対策予算:
2014年度350億ペソ
2015年度465億ペソ
国家全体予算のうち同防災対策予算が占める割合は、2014年度0.6%、2015年度0.5%となっています。
国家防災対策資金:
2014年度130億ペソ
2015年度140億ペソ

国家防災対策予算に国家資金(自己資金)が占める割合:
2014年度 国家資金37%、ODA他資金63%
2015年度 国家資金30%、ODA他資金70%
お気の毒としか言いようのない国家資金です。

国家防災対策予算内訳:
・治水排水事業 2014年度336億2千万ペソ、2015年度448億4千100万ペソ
・統一マッピングプロジェクト(2015年度新設)2015年度3億9千800万ペソ
・災害アセスメント全国運用システム 2014年度9億2千100万ペソ、2015年度11億5千300万ペソ
・地質災害アセスメント 2014年度4億3千100万ペソ、2015年度8千900万ペソ
・地震・火山監視及び防災情報有効活用強化プログラム 2014年度800万ペソ、2015年度800万ペソ
・火山・地震・津波警戒強化システム 2014年度1千万ペソ、2015年度900万ペソ

アキノ大統領の目論見では防災対策予算は国家資金で60%賄い、40%を先進国からの無償/有償のODAなどに頼る計算でした。しかし上記のように現実は40%すら満たしておりません。アロヨが任期終了前までに持ち出してしまったからです。

現状のフィリピンの防災対策は=インフラ整備に尽きます。国家資金不足や抵抗勢力(人間のクズの集まり)からの妨害をいちいち嘆いていても何も解決できません。大統領は前に進むしか許されないのです。2013年2月のフィリピン開発フォーラム総会に於いて、政府のインフラ支出をGDP比で2.6%から2016年までに5%に上げることが宣言されました。また2015年のAPEC首脳会議開催に向け、インフラ整備加速を示唆する発言が各関係閣僚から頻繁に出されています。アキノ大統領のフィリピン政府として残り1年半ですが、現在でもこの国の将来を決定するインフラ事業を加速化させようという強い姿勢が感じられます。

マーケティングの観点で云えば、上記2014年と2015年の国家防災対策予算を見ても、1年で予算が115億ペソ(約295億円)と増加していることから、今後も15~30%の防災市場成長率を見込めます。現在の国家防災対策予算内訳では、治水排水事業がその殆どを占めますが、このインフラ事業に目処が立ち始めていること、インフラの次はシステム、プログラム構築及び強化への資金投入が増大すること、そしてその為の外資規制緩和への期待が大きいことから先進国から再び注目を集めており、今後は一層の外資企業参入傾向が加速化していくものと考えられるからです。

国家災害危機削減管理評議会(NDRRMC)の前身である国家災害調整評議会(National Disaster Coordinating Council/略称NDCC)の歴史は古く、1978年公布の大統領令第1566号により創設されたものです。目的は防災能力強化と地域社会の災害準備に関する国家的な計画の策定、そして防災計画、災害対応や復旧における官民におよぶ各機関の協力調整を図ることでした。日本でしたら当たり前ですが、防災強化への取り組みとしてNDCCは災害が起こってから対応するのではなく、災害が起こる前に被害軽減の活動を行っていくための体制作りが重要点でした。歴代大統領が防災予算を私服を肥やすために搾取することなく防災事業に全力を注いでいたならば、近年の台風被害も最小限に食い止めることができたのかもしれません。まさに自然災害にプラス、汚職政治家による人災が加わった典型です。私は常にそういった汚職政治家たちを非難する記事を掲載していますが、日本の商社とつるんで汚職に走ったあげく晩年は悪妻の腹話術人形だったマルコス、汚職女性大統領として世界の歴史に名を刻んだアロヨ、そして次期大統領有力候補だが見かけはトライシクル・ドライバーみたいな人間を選択してはいけないと主張している根本はそこにあるのです。

アキノ大統領は2010年に新防災法として「フィリピン災害危機削減・管理及び復興法」を成立させています。この新防災法は、ガバナンス、リスクアセスメント、早期警戒、教育・啓発、根本的リスク要因の軽減、効果的な災害対応と早期復興のための災害対応準備など、災害リスク軽減から災害管理、復興など全ての面に及ぶ活動や方策に関する政策、計画の策定および実施を含むことで画期的なものであるとの国際的評価を得ています。大統領の政策に従い、NDRRMCはOCD(市民防衛局)の活動を通じ国連国際防災戦略事務局及び国連開発計画の支援により、2019年までの防災活動として優先すべきプログラムやプロジェクトのロードマップを示す戦略的国家アクションプランを発表しています。

長くなってきましたので、ここで日本企業により導入されている防災監視システム(含計画策定)を紹介します:
・フィリピン、ピナツボ火山監視無線システム(コムフォース社)
・フィリピンスービック港CCTV監視/PAシステム、及び5GHz OFDM バックホール(コムフォース社)
・フィリピン海上保安通信システム強化計画完成(2009年4月/日本無線社)
・テロ対策等治安無償「フィリピン沿岸警備通信システム強化計画」(2013年6月/JICA)
・フィリピン科学技術省向けIP映像配信システムをベースとした実験用「災害時用ブロードバンド・無線システム」(2014年7月/OKI)

上記は全て特筆すべきシステムであり、それらは日本の優れた技術によるものだと国民にもっと知らしめるべきだと思います。特に、科学技術省と気象庁の協力により公開されている「フィリピン洪水ハザードマップ」(http://www.nababaha.com/ )という、各自治体レベルで洪水警戒区域を見ることが可能なウェブサイトがあります。これは公開されている地図内の自分が知りたい区域をクリックしていくことにより、詳細な洪水ハザードマップを見ることが出来る仕組みになっています。使い方が分からない人にはYouTube動画が地図の下に埋め込まれており、これを見れば誰でも簡単に知りたい区域のハザードマップを見ることができるという優れものです。未だ見たことがない人は是非ご覧になって、大部分が見過ごしているに間違いない一般庶民の方たちに教えてあげて下さい。これは政府機関ですので同時にFacebookやTwitterでも情報を公開しています。

またアテネオ・デ・マニラ大学と科学技術省による「マニラ気象台」というウェブサイト内に「環境災害に対するフィリピンの脆弱性解析(http://vm.observatory.ph/hazard.html )というページがあります。ここでは火山、台風、地震、津波、猛暑、豪雨、エルニーニョ、地滑りなどといった自然災害別にハザードマップが公開されています。これは上記2014年7月にOKIがフィリピン科学技術省に提供した実験用「災害時用ブロードバンド・無線システム」が、科学技術省からアテネオ・デ・マニラ大学に移管され同大学の学生の手で作成されたものなのです。各マップをクリックすれば拡大図と地域毎の警戒レベルが一目瞭然となるようになっていて、日本企業の技術協力と科学技術省及びアテネオ大学の連携がお見事と言うしかありません。

続く

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2014年12月9日火曜日

フィリピンの防災体制はどうなっているのか(その1)

フィリピン中部を横断したRubyによる被害のニュースが日本でも報道されています。当社にも日本の様々な方々から「気をつけて」といった連絡をいただき本当に感謝しております。

さて、今回の政府の対応は今までお座成りになっていた防災の基本である「事前伝達」「避難誘導」、そして何よりも大切な「住民たち自らが居住地のハザードを理解・認識・判断し行動する」という点で、非常に評価できる成果であったと私は考えています。

さすがにOndoy、Pepeng、Yolanda、Glendaといった大型台風により立て続けに大被害を被っている事実からそれらを教訓にせざるを得なかったのでしょう。この国の人々を迅速に行動させるには理屈ではなく恐怖体験から来る条件反射なのかなと思いました。

幸いにもRubyが失速したこともあってマニラ首都圏では大きな被害はなかったように見受けられますが、私が一番注目したのは、ハザードマップに基づきマニラ首都圏開発庁(MMDA)と各自治体が力を合わせ、各地域の住民を避難させている姿でした。

避難所はイヴァキュエイション・センター(Evacuation Center)と呼ばれていますが、現実には小学校の校舎・施設を利用しています。今までフィリピンでこのような避難誘導の様子が報道されることは殆どありませんでした。被災の最中や被災後に出動し被災者を救出する活動ばかりが目立っていました。それはそれである意味美しい姿ではありましたが、たとえば洪水で流される人を救出しようとして命を落としている隊員もいた訳です。つまり「人命を守る」方策のあり方が問われていなかったために数多くの悲劇が起こっていたのです。

防災よりも被災地の事後対策という意識が先行するあまり、防災対策予算も無に等しいものでした。被災地の人々への救済事業や事後対策のインフラ事業の方がパフォーマンスとしてインパクトがありますし、この国の政治はそういう演出をすれば国民に支持されるものだという悪しき風潮が、それを糾弾する人間がいないことから未だに存在しているのです。

そこで今回はフィリピンの防災体制がどのようなものになっているのか紹介します。ただし非常に長文になるので数回に分けていきます。今回は「その1」です。

先ず災害伝達体制は 
大統領府(Office of the President/通称マラカニアン) 
国家災害危機削減管理評議会(National Disaster Risk Reduction and Management Council/略称NDRRMC) 
市民防衛局(Office of Civil Defense/略称OCD) 
気象庁(Philippine Atmospheric Geophysical and Astronomical Services Administration/略称PAGASA=パガサ) 
以上の4機関情報交換及び協議によって決定された伝達内容が、地方災害危機削減管理局と都市災害危機削減管理局の2経路で送達されています。

送達方法はSMS(フィリピンでは「テキスト」と呼ばれるショートメッセージ)、電話、FAXなのですが、一番利用されているのはSMSです。

地方災害危機削減管理局は州災害危機削減管理局、地方自治体災害危機削減管理局という経路で、その地方自治体に属するバランガイ災害危機削減管理課に伝達しています。一方、都市災害危機削減管理局は都市に属するバランガイ災害危機削減管理課に伝達しています。

しかし末端組織であるバランガイ災害危機削減管理課は現実にはバランガイ長の管理指導力が頼りになるため、伝達内容が住民に徹底されるのかどうか全くあてにできません。バランガイ長がアホであったならばその地域の被災者が増えるだけなのです。

そういった危惧もあってか政府は別に国民への伝達手段を講じています。国民の利用者数が5千万人を超えている「Facebook」を始めとしたSNSの圧倒的利用者数を誇るフィリピンでは、全ての省庁や行政機関はWebサイトだけでなく「Twitter」と「Facebook」のアカウントを持っています。そしてこれを利用した国民への伝達を行っており、国民にとって欠かせない情報媒体となっています。所得階層別での災害認知方法の差異は、ネット等で知り得るのか、バランガイからの伝達や口伝、テレビ、ラジオなどで知り得るのかの違いだけなのです。しかし貧困層や地方の未整備地域住民にとっては、バランガイから非難行動などの伝達や口伝が唯一の頼りであることは、考えようによっては大きな差異と言うことも出来ます。

テレビ局、ラジオ局、新聞社などのメディアサイトでも同時に情報発信を行う体制が整っており、特に2局ある国営テレビでは文字放送とアナウンスにより様々な情報を24時間体制で放映しています。

さらに国民のコミュニケーション手段として利用者数が多いSMSを有効活用しようということで、2014年8月には下院議会に於いて天災人災を問わず災害が発生した場合に、フィリピンの通信キャリア各社に対しSMSによる無料テキストアラート送信義務付け法案が下院承認されています。下院法案「携帯電話災害アラート法」では、『携帯電話のアラートなど現代の通知システムは、既存の非効率的なシステムを補完するために必須であり、各通信キャリアは、災害関連機関の要求に応じて消費者に対し定期的にアラートを送信すべきであり、災害発生緊急時には各機関からの最新情報を緊急アラートとして送信する義務を負う。そしてこれら全てのアラートは無償とするべきである』としています。また被災地内若しくは被災地近辺に位置する移動電話加入者に対し、地方自治体の第一応答者、避難場所、救援に関する連絡先情報を含めるものとなっています。

2013年の台風Yolanda被災以降にJICAが実施した災害伝達体制の機能確認では、市民防衛局や気象庁による予警プログラムが整備されており、台風の発生直後から災害情報を把握、予報と警報は大統領府から州、市町村レベルまで十分に伝達されていたこと、バランガイレベルでも住民に対し避難行動を呼びかけるなど一定の努力が確認されています。

しかしながらその一方では、Yolandaが過去に例を見ない大規模な勢力だったこと、2013年以降に地方防災計画が順次策定していった移行開始期にYolandaが発生したため、まだ住民個々のレベルでの理解深化には至ってなかったこと、台風に伴う高潮発生がタクロバン市など地方レベルの防災担当者にとっては想定外の事象となってしまい、住民に対する災害情報伝達に影響が出てしまったことなどが要因で、大きな人的物的被害が発生したのは記憶に新しいことです。

想定外の被災というのは、世界で最も優れた防災システムを持つ日本であっても起きていることですので、開発途上国であるフィリピンということを考えれば仕方がないことなのかもしれません。しかしフィリピンの問題は想像以上に深いところにあり、それが原因で自然災害に人的災害が加わって被害が拡大することにあります。

続く

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2014年12月7日日曜日

フィリピン・マーケティング/教育改革「K to 12」で広がる若年層の可能性

フィリピンは初等教育6年間、中等教育4年間の6-4制でアジアで唯一中等教育が4年間しかない国でしたが、2012年に施行された教育制度改革「K to 12」により他の国々と同水準になりました。これを何だ2年間増やしただけじゃないかと考える人は、この国をダメにしている最大の原因が「教育」であることを深く理解する必要があります。

システムとしては6-3-3制だ、いや6-6制だという情報が飛び交っていましたが、実際のシステムは6-4制から6-4-2制への変革です。

この国では6年制の小学校(Elementary/初等教育)、そして4年制の中学校(High School/中等教育)を終えると、そこで若年層教育がストップし進学しない/できない国民は、その時点で人生に於ける学習脳を閉じていました。進学できる国民はカレッジと呼ばれる専門学校やユニヴァーシティと呼ばれる大学に進学していました。ハイスクールを高校、カレッジを大学と勘違いしている日本人の方が非常に多いのですが、それを日本基準に合致させて考えるのはとんでもない大きな間違いです。

つまり本当の意味での中等学校になるということで、6-4-2制の6はElementary School、4はJunior High School、2はSenior High Schoolと呼ばれることになりました。Senior High Schoolは中等教育過程なのに日本では高等学校と呼んでいますが、同じ6-3-3制のアメリカでは中等学校(シニア)という扱いです。

6-3-3制ではなく6-4-2制としたのは、6-4が修了した時点で残りの2年間をカレッジで修了可能という措置を講じることにより、K12改革前までこの国をある意味支えてきた教育産業を破壊してしまうような制度変更を回避する配慮からです。しかしこの措置は暫定的なものと考えられ、6-4制の影響がなくなる時点で6-3-3制に移行する可能性があります。新制度は今後カレッジなどの教育産業にも求められる変革に対し与えられた一定の猶予期間とも考えられるからです。

この改革により恩恵を受けるのはもちろん国民ですが、ただの恩恵ではなく彼らの将来や人生設計を劇的に変える可能性を持った改革としてフィリピン史上に於いても画期的なものとなることでしょう。

というのは旧制度では日本の6-3-3制や、それと類似の制度を持つ国々に比べると、基礎教育(初等・中等教育)が2年間少ないにも関わらず、他国の12年間に相当する学習内容を10年間の詰め込み教育で実施していたため、落ちこぼれる生徒の増大によりその先の進路に於いても決定的な基礎学力低下を招く結果となっていたからです。各種国家試験合格率の低下も著しく、これも全て旧教育制度による最大の弊害であった基礎学力の低下に原因があります。

またこの旧制度は落ちこぼれ生徒増大や基礎学力低下を招いただけでなく、低所得者層の貧困脱出を困難に陥れ、更なる貧困の拡大という負の連鎖を生むに至りました。その理由は就業年齢の問題です。フィリピンの就業年齢は成人年齢と同じ18歳です。しかしながら中等教育修了年齢は旧制度では16歳でした。驚くべきことですが、進学しない者はハイスクール卒業と同時に2年間の失業状態となっていたのです。国家全体の失業者数の約30%をハイスクール卒学歴の者が占め、さらに言えば失業者の約50%が15歳から24歳の若年青年層なのです。

ハイスクールを卒業しても2年間の教育期間不足により海外留学もできない、海外出稼ぎ労働者(OFW)となった優れた資格を持つ人材であっても、2年間の不足により常に一段階下の資格ランクとしか見做されず、人材輸出産業国と言われるフィリピンの国益を大きく損ねてきたのです。

このフィリピン最悪の制度であった教育制度の改革により、低所得者層であってもハイスクール卒業と同時に就業できることになったことは勤労学生の増加を生むことにもなり、結果として教育機関の活性化、そして基礎学力が充実した優秀な人材の増大にも繋がる大改革と言えます。今まで貧困層は永久に貧困層のままでいるしかなかった彼らの未来が、自らの意志と努力でも変えることが可能になったのです。そしてこれが意味するところは、現在でも年々増大している中間層に、低所得者層/貧困層を脱した中間層が加わるため、その割合が今後は拡大し続けていくことは明白です。マーケティングとしては、この新中間層をターゲットとして取り込んでいく戦略をイノベーションプランに加えていくべきであると考えています。

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