Barros-Keiコラムとは?

フィリピンにおける裁判手続きや結婚手続きなどで多くの誤認情報をネットで見かけます。またフィリピン人からの古い口コミ情報を信じている人も沢山います。以前日本のかなり手広くやっている行政書士グループ会社ウェブサイトに、当社の文章を丸々パクられたことがあります。責任者にすぐにクレームを出し全て削除させました。たとえ肩書きが弁護士や行政書士であっても、日本にもフィリピンにも専門知識のない業者は数多くいます。しかし知識や情報を持っていない依頼者の方たちは、その肩書きを信じて頼るしかありません。そういう現状から本コラムが、これからフィリピンで何かアクションを起こそうとする方たちのために、少しでも役立つものになればいいと思います。また立派な肩書きを持つ人たちは、それに恥じないようもう少ししっかりと勉強してから情報を発信すべきです。そもそも知識や経験というものは、フィリピンに長く在住しているから自動的に得られるというものでは絶対にありません。同じようなレベルの人間としか交流がないのであれば、たとえ50年在住していようとも、濃い日々を過ごした人の1ヶ月にも及ばないことがあるのです。当コラムの目的はそれらを正し正確且つ最新の情報を伝えることにあります。
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2014年12月9日火曜日

フィリピンの防災体制はどうなっているのか(その1)

フィリピン中部を横断したRubyによる被害のニュースが日本でも報道されています。当社にも日本の様々な方々から「気をつけて」といった連絡をいただき本当に感謝しております。

さて、今回の政府の対応は今までお座成りになっていた防災の基本である「事前伝達」「避難誘導」、そして何よりも大切な「住民たち自らが居住地のハザードを理解・認識・判断し行動する」という点で、非常に評価できる成果であったと私は考えています。

さすがにOndoy、Pepeng、Yolanda、Glendaといった大型台風により立て続けに大被害を被っている事実からそれらを教訓にせざるを得なかったのでしょう。この国の人々を迅速に行動させるには理屈ではなく恐怖体験から来る条件反射なのかなと思いました。

幸いにもRubyが失速したこともあってマニラ首都圏では大きな被害はなかったように見受けられますが、私が一番注目したのは、ハザードマップに基づきマニラ首都圏開発庁(MMDA)と各自治体が力を合わせ、各地域の住民を避難させている姿でした。

避難所はイヴァキュエイション・センター(Evacuation Center)と呼ばれていますが、現実には小学校の校舎・施設を利用しています。今までフィリピンでこのような避難誘導の様子が報道されることは殆どありませんでした。被災の最中や被災後に出動し被災者を救出する活動ばかりが目立っていました。それはそれである意味美しい姿ではありましたが、たとえば洪水で流される人を救出しようとして命を落としている隊員もいた訳です。つまり「人命を守る」方策のあり方が問われていなかったために数多くの悲劇が起こっていたのです。

防災よりも被災地の事後対策という意識が先行するあまり、防災対策予算も無に等しいものでした。被災地の人々への救済事業や事後対策のインフラ事業の方がパフォーマンスとしてインパクトがありますし、この国の政治はそういう演出をすれば国民に支持されるものだという悪しき風潮が、それを糾弾する人間がいないことから未だに存在しているのです。

そこで今回はフィリピンの防災体制がどのようなものになっているのか紹介します。ただし非常に長文になるので数回に分けていきます。今回は「その1」です。

先ず災害伝達体制は 
大統領府(Office of the President/通称マラカニアン) 
国家災害危機削減管理評議会(National Disaster Risk Reduction and Management Council/略称NDRRMC) 
市民防衛局(Office of Civil Defense/略称OCD) 
気象庁(Philippine Atmospheric Geophysical and Astronomical Services Administration/略称PAGASA=パガサ) 
以上の4機関情報交換及び協議によって決定された伝達内容が、地方災害危機削減管理局と都市災害危機削減管理局の2経路で送達されています。

送達方法はSMS(フィリピンでは「テキスト」と呼ばれるショートメッセージ)、電話、FAXなのですが、一番利用されているのはSMSです。

地方災害危機削減管理局は州災害危機削減管理局、地方自治体災害危機削減管理局という経路で、その地方自治体に属するバランガイ災害危機削減管理課に伝達しています。一方、都市災害危機削減管理局は都市に属するバランガイ災害危機削減管理課に伝達しています。

しかし末端組織であるバランガイ災害危機削減管理課は現実にはバランガイ長の管理指導力が頼りになるため、伝達内容が住民に徹底されるのかどうか全くあてにできません。バランガイ長がアホであったならばその地域の被災者が増えるだけなのです。

そういった危惧もあってか政府は別に国民への伝達手段を講じています。国民の利用者数が5千万人を超えている「Facebook」を始めとしたSNSの圧倒的利用者数を誇るフィリピンでは、全ての省庁や行政機関はWebサイトだけでなく「Twitter」と「Facebook」のアカウントを持っています。そしてこれを利用した国民への伝達を行っており、国民にとって欠かせない情報媒体となっています。所得階層別での災害認知方法の差異は、ネット等で知り得るのか、バランガイからの伝達や口伝、テレビ、ラジオなどで知り得るのかの違いだけなのです。しかし貧困層や地方の未整備地域住民にとっては、バランガイから非難行動などの伝達や口伝が唯一の頼りであることは、考えようによっては大きな差異と言うことも出来ます。

テレビ局、ラジオ局、新聞社などのメディアサイトでも同時に情報発信を行う体制が整っており、特に2局ある国営テレビでは文字放送とアナウンスにより様々な情報を24時間体制で放映しています。

さらに国民のコミュニケーション手段として利用者数が多いSMSを有効活用しようということで、2014年8月には下院議会に於いて天災人災を問わず災害が発生した場合に、フィリピンの通信キャリア各社に対しSMSによる無料テキストアラート送信義務付け法案が下院承認されています。下院法案「携帯電話災害アラート法」では、『携帯電話のアラートなど現代の通知システムは、既存の非効率的なシステムを補完するために必須であり、各通信キャリアは、災害関連機関の要求に応じて消費者に対し定期的にアラートを送信すべきであり、災害発生緊急時には各機関からの最新情報を緊急アラートとして送信する義務を負う。そしてこれら全てのアラートは無償とするべきである』としています。また被災地内若しくは被災地近辺に位置する移動電話加入者に対し、地方自治体の第一応答者、避難場所、救援に関する連絡先情報を含めるものとなっています。

2013年の台風Yolanda被災以降にJICAが実施した災害伝達体制の機能確認では、市民防衛局や気象庁による予警プログラムが整備されており、台風の発生直後から災害情報を把握、予報と警報は大統領府から州、市町村レベルまで十分に伝達されていたこと、バランガイレベルでも住民に対し避難行動を呼びかけるなど一定の努力が確認されています。

しかしながらその一方では、Yolandaが過去に例を見ない大規模な勢力だったこと、2013年以降に地方防災計画が順次策定していった移行開始期にYolandaが発生したため、まだ住民個々のレベルでの理解深化には至ってなかったこと、台風に伴う高潮発生がタクロバン市など地方レベルの防災担当者にとっては想定外の事象となってしまい、住民に対する災害情報伝達に影響が出てしまったことなどが要因で、大きな人的物的被害が発生したのは記憶に新しいことです。

想定外の被災というのは、世界で最も優れた防災システムを持つ日本であっても起きていることですので、開発途上国であるフィリピンということを考えれば仕方がないことなのかもしれません。しかしフィリピンの問題は想像以上に深いところにあり、それが原因で自然災害に人的災害が加わって被害が拡大することにあります。

続く

注)当コラムの著作権は全てフィリピン法人Barros-Kei Corporationに帰属します。これらのファイルを許可無く複製、転載、流用することを禁止します。