Barros-Keiコラムとは?

フィリピンにおける裁判手続きや結婚手続きなどで多くの誤認情報をネットで見かけます。またフィリピン人からの古い口コミ情報を信じている人も沢山います。以前日本のかなり手広くやっている行政書士グループ会社ウェブサイトに、当社の文章を丸々パクられたことがあります。責任者にすぐにクレームを出し全て削除させました。たとえ肩書きが弁護士や行政書士であっても、日本にもフィリピンにも専門知識のない業者は数多くいます。しかし知識や情報を持っていない依頼者の方たちは、その肩書きを信じて頼るしかありません。そういう現状から本コラムが、これからフィリピンで何かアクションを起こそうとする方たちのために、少しでも役立つものになればいいと思います。また立派な肩書きを持つ人たちは、それに恥じないようもう少ししっかりと勉強してから情報を発信すべきです。そもそも知識や経験というものは、フィリピンに長く在住しているから自動的に得られるというものでは絶対にありません。同じようなレベルの人間としか交流がないのであれば、たとえ50年在住していようとも、濃い日々を過ごした人の1ヶ月にも及ばないことがあるのです。当コラムの目的はそれらを正し正確且つ最新の情報を伝えることにあります。
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2014年12月10日水曜日

フィリピンの防災体制はどうなっているのか(その2)

2010年にマーケティングでPAGASAを訪問しヒアリングを行ったことがありますが、設備が脆弱でただのコールセンターのようでした。職員が5名程度で年度予算はないに等しいため、給与支払と設備メンテナンスで精一杯、天気図などはPhotoshopの海賊版を使用し手作業で行っていました。その様子はまるで塗り絵をしているようでしたが、私には笑えませんでした。

その当時は大統領選挙の最中にあり、職員に話題を振ると「アロヨみたいなのはもう勘弁。ヴィリヤールもビナイもバヤ二も汚職ばかり。だから重要な政府機関に予算が回って来ない」と嘆いていました。

アキノ大統領になってからは、日本から積極的な援助協力を得てサテライト・システムなども導入されたため、日本の気象庁と殆ど違いがないほどの精度でPAGASAも運営されています。これがアロヨのような汚職まみれの大統領だったならば、PAGASAも未だに塗り絵作業を強いられることになっていたかもしれません。

ここでフィリピンの防災対策予算について言及します:
国家防災対策予算:
2014年度350億ペソ
2015年度465億ペソ
国家全体予算のうち同防災対策予算が占める割合は、2014年度0.6%、2015年度0.5%となっています。
国家防災対策資金:
2014年度130億ペソ
2015年度140億ペソ

国家防災対策予算に国家資金(自己資金)が占める割合:
2014年度 国家資金37%、ODA他資金63%
2015年度 国家資金30%、ODA他資金70%
お気の毒としか言いようのない国家資金です。

国家防災対策予算内訳:
・治水排水事業 2014年度336億2千万ペソ、2015年度448億4千100万ペソ
・統一マッピングプロジェクト(2015年度新設)2015年度3億9千800万ペソ
・災害アセスメント全国運用システム 2014年度9億2千100万ペソ、2015年度11億5千300万ペソ
・地質災害アセスメント 2014年度4億3千100万ペソ、2015年度8千900万ペソ
・地震・火山監視及び防災情報有効活用強化プログラム 2014年度800万ペソ、2015年度800万ペソ
・火山・地震・津波警戒強化システム 2014年度1千万ペソ、2015年度900万ペソ

アキノ大統領の目論見では防災対策予算は国家資金で60%賄い、40%を先進国からの無償/有償のODAなどに頼る計算でした。しかし上記のように現実は40%すら満たしておりません。アロヨが任期終了前までに持ち出してしまったからです。

現状のフィリピンの防災対策は=インフラ整備に尽きます。国家資金不足や抵抗勢力(人間のクズの集まり)からの妨害をいちいち嘆いていても何も解決できません。大統領は前に進むしか許されないのです。2013年2月のフィリピン開発フォーラム総会に於いて、政府のインフラ支出をGDP比で2.6%から2016年までに5%に上げることが宣言されました。また2015年のAPEC首脳会議開催に向け、インフラ整備加速を示唆する発言が各関係閣僚から頻繁に出されています。アキノ大統領のフィリピン政府として残り1年半ですが、現在でもこの国の将来を決定するインフラ事業を加速化させようという強い姿勢が感じられます。

マーケティングの観点で云えば、上記2014年と2015年の国家防災対策予算を見ても、1年で予算が115億ペソ(約295億円)と増加していることから、今後も15~30%の防災市場成長率を見込めます。現在の国家防災対策予算内訳では、治水排水事業がその殆どを占めますが、このインフラ事業に目処が立ち始めていること、インフラの次はシステム、プログラム構築及び強化への資金投入が増大すること、そしてその為の外資規制緩和への期待が大きいことから先進国から再び注目を集めており、今後は一層の外資企業参入傾向が加速化していくものと考えられるからです。

国家災害危機削減管理評議会(NDRRMC)の前身である国家災害調整評議会(National Disaster Coordinating Council/略称NDCC)の歴史は古く、1978年公布の大統領令第1566号により創設されたものです。目的は防災能力強化と地域社会の災害準備に関する国家的な計画の策定、そして防災計画、災害対応や復旧における官民におよぶ各機関の協力調整を図ることでした。日本でしたら当たり前ですが、防災強化への取り組みとしてNDCCは災害が起こってから対応するのではなく、災害が起こる前に被害軽減の活動を行っていくための体制作りが重要点でした。歴代大統領が防災予算を私服を肥やすために搾取することなく防災事業に全力を注いでいたならば、近年の台風被害も最小限に食い止めることができたのかもしれません。まさに自然災害にプラス、汚職政治家による人災が加わった典型です。私は常にそういった汚職政治家たちを非難する記事を掲載していますが、日本の商社とつるんで汚職に走ったあげく晩年は悪妻の腹話術人形だったマルコス、汚職女性大統領として世界の歴史に名を刻んだアロヨ、そして次期大統領有力候補だが見かけはトライシクル・ドライバーみたいな人間を選択してはいけないと主張している根本はそこにあるのです。

アキノ大統領は2010年に新防災法として「フィリピン災害危機削減・管理及び復興法」を成立させています。この新防災法は、ガバナンス、リスクアセスメント、早期警戒、教育・啓発、根本的リスク要因の軽減、効果的な災害対応と早期復興のための災害対応準備など、災害リスク軽減から災害管理、復興など全ての面に及ぶ活動や方策に関する政策、計画の策定および実施を含むことで画期的なものであるとの国際的評価を得ています。大統領の政策に従い、NDRRMCはOCD(市民防衛局)の活動を通じ国連国際防災戦略事務局及び国連開発計画の支援により、2019年までの防災活動として優先すべきプログラムやプロジェクトのロードマップを示す戦略的国家アクションプランを発表しています。

長くなってきましたので、ここで日本企業により導入されている防災監視システム(含計画策定)を紹介します:
・フィリピン、ピナツボ火山監視無線システム(コムフォース社)
・フィリピンスービック港CCTV監視/PAシステム、及び5GHz OFDM バックホール(コムフォース社)
・フィリピン海上保安通信システム強化計画完成(2009年4月/日本無線社)
・テロ対策等治安無償「フィリピン沿岸警備通信システム強化計画」(2013年6月/JICA)
・フィリピン科学技術省向けIP映像配信システムをベースとした実験用「災害時用ブロードバンド・無線システム」(2014年7月/OKI)

上記は全て特筆すべきシステムであり、それらは日本の優れた技術によるものだと国民にもっと知らしめるべきだと思います。特に、科学技術省と気象庁の協力により公開されている「フィリピン洪水ハザードマップ」(http://www.nababaha.com/ )という、各自治体レベルで洪水警戒区域を見ることが可能なウェブサイトがあります。これは公開されている地図内の自分が知りたい区域をクリックしていくことにより、詳細な洪水ハザードマップを見ることが出来る仕組みになっています。使い方が分からない人にはYouTube動画が地図の下に埋め込まれており、これを見れば誰でも簡単に知りたい区域のハザードマップを見ることができるという優れものです。未だ見たことがない人は是非ご覧になって、大部分が見過ごしているに間違いない一般庶民の方たちに教えてあげて下さい。これは政府機関ですので同時にFacebookやTwitterでも情報を公開しています。

またアテネオ・デ・マニラ大学と科学技術省による「マニラ気象台」というウェブサイト内に「環境災害に対するフィリピンの脆弱性解析(http://vm.observatory.ph/hazard.html )というページがあります。ここでは火山、台風、地震、津波、猛暑、豪雨、エルニーニョ、地滑りなどといった自然災害別にハザードマップが公開されています。これは上記2014年7月にOKIがフィリピン科学技術省に提供した実験用「災害時用ブロードバンド・無線システム」が、科学技術省からアテネオ・デ・マニラ大学に移管され同大学の学生の手で作成されたものなのです。各マップをクリックすれば拡大図と地域毎の警戒レベルが一目瞭然となるようになっていて、日本企業の技術協力と科学技術省及びアテネオ大学の連携がお見事と言うしかありません。

続く

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