Barros-Keiコラムとは?

フィリピンにおける裁判手続きや結婚手続きなどで多くの誤認情報をネットで見かけます。またフィリピン人からの古い口コミ情報を信じている人も沢山います。以前日本のかなり手広くやっている行政書士グループ会社ウェブサイトに、当社の文章を丸々パクられたことがあります。責任者にすぐにクレームを出し全て削除させました。たとえ肩書きが弁護士や行政書士であっても、日本にもフィリピンにも専門知識のない業者は数多くいます。しかし知識や情報を持っていない依頼者の方たちは、その肩書きを信じて頼るしかありません。そういう現状から本コラムが、これからフィリピンで何かアクションを起こそうとする方たちのために、少しでも役立つものになればいいと思います。また立派な肩書きを持つ人たちは、それに恥じないようもう少ししっかりと勉強してから情報を発信すべきです。そもそも知識や経験というものは、フィリピンに長く在住しているから自動的に得られるというものでは絶対にありません。同じようなレベルの人間としか交流がないのであれば、たとえ50年在住していようとも、濃い日々を過ごした人の1ヶ月にも及ばないことがあるのです。当コラムの目的はそれらを正し正確且つ最新の情報を伝えることにあります。
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2014年12月20日土曜日

フィリピンの裁判で失敗しないために

偽造文書、偽装裁判などの被害について今まで記事にしてきましたが、今回は離婚承認裁判や婚姻無効裁判を依頼するにあたり、「失敗しない/失敗するリスクを減らすためにはどうすればいいのか」というテーマでお話します。

1.フィリピン人の伝手では探さない。
フィリピン人のネットワークを使っても情報が古かったり不明確なものが多いので安易に信用しないことです。裁判手続は年々厳格化しており「私のときはこうだった」などという情報は全く役に立ちません。ここで決めてしまうような方は100%失敗すると断言します。

ただ頭ごなしに否定してしまうとフィリピン人の立場やプライドもありますし、それが婚約者の伝手であったならばその人間関係に支障をきたすこともあるでしょう。このような場合でも自らWebサーチで情報を得る作業を続けながら、任せている振りをして最終決定は自分がするという鷹揚な構えでいることです。少なくともフィリピン人に丸投げするようなことは愚挙であることを認識しておくべきです。

2.日本の行政書士でも無条件には信用しない。
行政書士にはネットワークを構築し組織化して業務を行っているところも多くなってきています。掲載されている文章をよく読むことが重要です。得てして行政書士には勉強不足で文章力が欠ける人間が多いのでホームページが立派でも文章内容がスカスカというものも見受けられます。ホームページだけでなくブログでもパクリが多くあります。

「裁判をしなくても結婚できる方法を発見しました」などという文言掲載しているのも見掛けますが、大体にそんなことを「発見」という言葉を使うことからして日本語能力のなさを露呈していますし、コンテンツのもって行き方が詐欺商法のウェブサイトに似通った順序になっています。所謂読み手に質問を投げかけながら答えも言っている誘導サイトです。行政書士の殆どはマクロな定性情報だけしか持ち合わせていないのです。

事例やQ&Aも掲載しているようなホームページを熟読してここなら頼めるかなという所があれば事前にある程度の裁判知識や情報を仕入れておいてから電話で問い合わせをしてみると良いでしょう。そこで納得できる説明を聞くことができれば契約していいと思います。ただし必ず契約書内容を確認し不明な点は問い合わせることが重要なのは云うまでもありません。

メールで問い合わせをするのが相手が何を言ったのか証拠として残るので後々のためには最善の策です。ただし返信に日数が必要以上にかかるのは対象外とします。あとは返信内容。やはり納得ができるようなものかどうかです。中身がなければ対象外とします。

なぜこのようなことが必要なのかと言えば、日本の行政書士はフィリピンで訴訟を起こせる権限はもちろんありませんが、結局はフィリピンの業者や弁護士の伝手を頼り仕事を振るだけだからです。法廷の証言台に立ったこともなければ傍聴したことさえないのです。当然英語力も必要になります。問い合わせが来ても詳細に説明できるはずがありません。

訴状をよく読み、判決文や審決証明もしっかりと読んでいる人ならば、内容はある程度は把握できるでしょうし、原告弁護士と進捗について常に連絡を取り合っている人であれば、裁判手続の流れが理解できてくるはずです。依頼を決定するまでの重要点はそこにあるのです。

数は多くはないですが職業意識が高く、自らがフィリピンに何度も足を運んで裁判所を訪れている行政書士の方もいます。日本の行政書士に依頼するならばこのように努力を惜しまない方を選ぶべきでしょう。

肩書きが行政書士や弁護士であってもフィリピンでは無力です。彼らは単なる仲介者に過ぎないこと、仲介者がいるということはその分費用がかかるということ、フィリピン人関係者をマネージメントできる人間がいなければ手続がいい加減になることを忘れてはいけません。そういう人間はメールでの言葉遣いや言い回しでボロを出しますので判断できると思います。

3.英語力に自信があるなら自力でフィリピンの弁護士を探す。
少なくとも英語である程度理解できるならば自分で探してみる努力をすべきです。直接話しができてメールのやり取りができる弁護士が見つかれば、会話を繰り返すうちに弁護士の資質も分かってきます。知識や経験がない弁護士は質問を繰り返していると、面倒臭がり返答してこなくなったり信じることができないのかと怒ったりします。

信用できないのかというのはフィリピン人が日本人を謀るときに使う得意手口ですので、そういう言葉を吐いた瞬間に信用度ゼロと判断すべきです。そして大体はこの時点で単に金目当てのバカかどうか見当がつきます。

4.契約で裁判手続のどこまでカバーしているのか確認する。
意外と知られていないのですが実はこれが一番重要なことです。

弁護士の業務は提訴状準備に始まり公判への出廷、そして判決文取得までです。しかしフォローアップがこれだけでは終わったことにはなりません。再婚を目的とするならばフィリピン統計庁(PSA/旧NSO)に注釈付の前婚姻証明書を取得するまではこの手続が終わったわけではないのです。

しかも判決文取得までの仕事に支払う弁護士報酬(アトーニーズ・フィー/Attorney's Fee)は20万ペソが相場で、フリーランサーの弁護士ならば30万ペソまで請求してきます。

日本人が費用を聞くと全ての弁護士はこのAttrney's Feeを提示します。ここで多くの日本人の方はAttorney's Feeを裁判費用と勘違いしてしまいます。彼らはできる限り多くの付加報酬を得ようとしますから、裁判に関わる全ての手続費用、交通費、食費などの諸費用は別途に請求してきます。

現実としては、判決文が交付されてからが手続の最終段階となり、判決告示、法務局、検察総局の審査を経て審決証明及び登録命令取得手続、登録移管手続、4~5ヶ月かかった上でやっと注釈付前婚姻証明書を手にすることができるのです。

この最終段階の手続には弁護士は関わりません。彼らの仕事はその前で終わっているからです。それではこの手続は誰が行うのでしょうか?誰も行いませんし別途依頼すればまた費用がかかります。放置してもいつかは登録されますがそれが半年先か1年以上先のことになるかは誰にも責任が持てません。

私が一番重要と考えるのはそういった理由からです。そこまでを全てカバーしている契約が可能なところを前提に見極めなければなりません。

5.まとめ
今年の中頃からまたまた手続の期間が長引くようになりました。法務局や検察局、民事登録局が裁判所に判決文の真偽を確認する方法が一層厳格化されたからです。どういう機関での手続が厳格化され要件は何かについてはパクられるのでここでは言及しませんが、裁判手続というのは常にアップデートが必要であり、それは毎年数多くの事件を扱っていなければ分からないことなのです。

アップデートされた情報で対応できない弁護士がいたら、それは客がいない=金に困っている弁護士と考えて間違えありません。中には弁護士資格を更新する金もなく、案件を取ると他の弁護士に任せてしまう最悪な者もいるのが現実なのです。これでは仲介者と同じではありませんか?

手続の厳格化は偽装・偽装・不正手続が多くなったからに他ありません。また偽造・偽装・不正という馬鹿げたことをする90%以上は恥ずかしいことに日本人関係なのです。まともに取り組んでいる人間にとってこういう日本人たちの存在は迷惑以外の何者でもありません。彼らはフィリピンに在留していることだけをアドヴァンテージにし、さも何でも知っている振りをしている人間たちなのです。

こういう人間に任せてしまうと仲介者としての取り分も上乗せされ最終的にAttorney's Feeの1.5~2倍の費用がかかる結果となります。仲介者は厳密に言えばフィクサー/Fixerの範疇に入るのでアンチ・フィクサー法に抵触しています。日本の法律に関係ないフィリピンの裁判なので、広義に考えれば行政書士や弁護士だろうが内政干渉となりそこに報酬があればフィクサーと見做されます。もし滞在中に訴えられでもすれば身柄拘束や罰金ということも可能性ゼロではないことを知るべきです。

2年ほど前に日本の弁護士が離婚承認裁判に証人として出廷したのを傍聴しました。彼は英語が上手く話せないので通訳が付きました。しかし残念ながら日本の協議離婚制度を彼が説明し裁判官に納得してもらうことは土台無理な話でした。弁護士であろうと先ず英語が理解できない、そして何よりカトリックに基づくフィリピンの婚姻契約制度を理解していない日本人が証言台に立っても、無力な存在でしかないのです。

裁判手続はマネージメントがしっかりしていても思うに任せない進捗になることがあります。しかしそれに対し怒って督促を繰り返したりすれば、関係者を焦らせ偽造に走ることもあるので最悪の結果になってしまいます。裁判手続終了をただ待つ身の方々にとってはかなりの精神修練を強いられますが、進捗に一喜一憂せずにどっしりと構え何事にも動じない精神力が必要です。

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2014年12月12日金曜日

フィリピンの防災体制はどうなっているのか(その3)

今回最終回は、フィリピンの防災体制が今後どのようになっていくのか、というテーマで記事にします。

先ず最初に日本外務省及び在比日本大使館のウェブサイトにリリースされている情報です;
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2014年3月25日、フィリピン共和国首都マニラに於いて、卜部敏直駐フィリピン日本国大使とアルバート・デル・ロサリオ外務大臣との間で,環境・気候変動無償「メトロセブ水道区上水供給改善計画(11億6,500万円)」、テロ対策等治安無償「沿岸警備通信システム強化計画(11億5,200万円)」及び防災・災害復興支援無償「台風ヨランダ災害復旧・復興計画(46億円)」に関する交換公文の署名が行われた。

「メトロセブ水道区上水供給改善計画」は、日本の優れた中央監視制御装置(SCADA)システム等の導入支援をメトロセブ水道区の上水供給エリアにおいて実施し、リアルタイムでの給水状況の正確なモニタリングと水道施設の適切な運転管理体制の構築を図るものである。これにより、フィリピン政府が進めている地方拠点開発のためのインフラ整備促進に貢献するとともに、日本企業の有する優れた技術がフィリピン国内で普及することにより、日本企業のフィリピンへの展開の足がかりになることが期待される。

「沿岸警備通信システム強化計画」は、フィリピン沿岸警備隊の主要運用船舶及び新設管区本部(ルソン北東,ヴィサヤ東)等と本庁間の通信システム整備、及びセブ港周辺海域の船舶航行監視システムの構築を行うことにより、海上安全確保における対応能力の向上を図るものである。これにより、島嶼国であるフィリピン政府が進めている海上運輸交通の強化に貢献するとともに、かかる投資環境整備を通じて日本企業のフィリピンへの進出促進が期待される。

「台風ヨランダ災害復旧・復興計画」は、台風ヨランダの被災地域において、医療施設・学校・政府庁舎等の社会インフラや経済インフラ、防災インフラ等の早期復旧・復興(施設建設,機材調達)等につき優先度の高いものを支援することにより、被災地域の速やかな復旧・復興を図るものである。これにより、フィリピン政府が進めている災害に強い社会の形成に貢献するとともに、フィリピンの持続的経済成長及び日本との緊密な経済関係が維持・促進されることが期待される。

これらの協力を通じて、フィリピンの開発政策支援を図ると同時に、今後の日本企業の海外展開が促進されるなど、日本とフィリピンとの経済関係が一層強化されることが期待される。
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上記日本政府のODA政策が、インフラ整備関連及び災害地域の復旧・復興事業を最優先としていることは明白です。つまり現状フィリピンにあるインフラ整備事業に目処が付く当面の間は、フィリピンに対する防災支援政策は事後対策を対象としたものへの支援が大きくならざるを得ないということです。

以下は日本政府が2000年以来行ってきた防災対策及び事後対策の支援概要です;
2000年
第二次オルモック市洪水対策事業計画(22億円)
メトロマニラ洪水制御及び警報システム改善計画(11億円・沿岸警備通信システム強化計画)
2001年
アンガット川灌漑用調整ダム護床改修計画(13億円)
第2次地震・火山観測網整備計画

2003年
カガヤン灌漑施設改修計画(9億円)

2007年
第1期パンパンガ河及びアグノ河洪水予警報システム改善計画(8億円・防災・災害復興支援無償)
海上保安通信システム強化計画(6億円・テロ対策等治安無償)

2008年
気象レーダーシステム整備計画(0.2億円・詳細設計)
第2期パンパンガ河及びアグノ河洪水予警報システム改善計画(4億円・防災・災害復興支援無償)

2009年
気候変動による自然災害対処能力向上計画(15億円)
気象レーダーシステム整備計画(34億円)
カミギン島防災復旧計画(10億円)

2011年
広域防災システム整備計画(10億円)
マヨン火山周辺地域避難所整備計画(8億円)

2013年
沿岸警備通信システム強化計画(12億円)
台風ヨランダ災害復旧・復興計画(46億円)

2001年エストラーダ大統領に対する弾劾が成立し副大統領から昇格したアロヨ前大統領は、エストラーダ大統領任期の残り3年間、そして引き続き大統領選に立候補し当選した任期6年間を合わせた9年間でアロヨ政権の公金横領・流用、不正、収賄という体質から暗黒時代に突入しました。

2004年から2006年はODAゼロになっています。アロヨが国民の期待を裏切っていることが顕著になってきた時期でもあります。退任前の2009年には最後の利権を得ることと、国家予算の帳尻あわせのために思いつき外遊を繰り返し何とかODAをかき集めましたが、これは次期大統領への期待値の現れであり、諸外国からアロヨに三行半を突きつけられた表れなのです。このアロヨの晩年には日米を中心とした商社も最後の利権漁りに彼女を利用しようと多少ながらも本気になったのでしょう。任期切れ直前にはアロヨ政権時代の功績を称えるキャンペーンをメディアに強制し流していました。

任期終了とともに下院議員に立候補し当選、そして旗色が悪くなると国外逃亡を図ったが逮捕、現在は入院治療を理由としてどうにか収監を免れているだけのアロヨが牛耳ってきたこの9年間は、フィリピンの経済成長が完全に阻まれ、アロヨ一派だけが私腹を肥やす結果となり、国民にとっては全く無為な時であり、諸外国からは「アジアの病人」と揶揄される時代となりました。特に政権の晩年には諸外国からも経済援助を無視され、意味のない小さなプロジェクトを乱発し小銭着服に明け暮れた挙句に、信頼失墜を招いた責任は万死に値するものです。

アキノ大統領は、2010年大統領選でアロヨと同類の汚職候補である建設族ビリヤールを破り当選を果たしました。そして現在彼の汚職撲滅・インフラ整備という二大政策の効果によって、フィリピンの防災市場が再び輝きを取り戻しつつあるのは紛れもない事実なのです。

最近の外国企業が積極的に参入姿勢を見せている背景には、こういった現政権に対する大きな期待の現れと見ることができます。そして諸外国としても2016年に実施される大統領選挙の動向を注視しているのですが、汚職撲滅政策を地方行政、関係省庁の順に拡大し2013年からは上院・下院議員、現在は副大統領までに追及が及んでいることから、次期大統領選では現大統領の政策を継承する後継大統領が選出されるものという期待が大きいのです。

従って現政権の政策を継承し発展させることを第一に掲げる人物が次期大統領に当選すれば、PPPによる諸外国のインフラ事業投資がさらに加速化し、現況で毎年15~30%の成長が見込まれる防災市場は、国家予算の3~5%(現在0.5~0.6%)まで拡大していくものと考えています。私が2016年はフィリピンという国の将来を賭けた大統領選となると言った理由には、そういった背景があるのです。

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2014年12月10日水曜日

フィリピンの防災体制はどうなっているのか(その2)

2010年にマーケティングでPAGASAを訪問しヒアリングを行ったことがありますが、設備が脆弱でただのコールセンターのようでした。職員が5名程度で年度予算はないに等しいため、給与支払と設備メンテナンスで精一杯、天気図などはPhotoshopの海賊版を使用し手作業で行っていました。その様子はまるで塗り絵をしているようでしたが、私には笑えませんでした。

その当時は大統領選挙の最中にあり、職員に話題を振ると「アロヨみたいなのはもう勘弁。ヴィリヤールもビナイもバヤ二も汚職ばかり。だから重要な政府機関に予算が回って来ない」と嘆いていました。

アキノ大統領になってからは、日本から積極的な援助協力を得てサテライト・システムなども導入されたため、日本の気象庁と殆ど違いがないほどの精度でPAGASAも運営されています。これがアロヨのような汚職まみれの大統領だったならば、PAGASAも未だに塗り絵作業を強いられることになっていたかもしれません。

ここでフィリピンの防災対策予算について言及します:
国家防災対策予算:
2014年度350億ペソ
2015年度465億ペソ
国家全体予算のうち同防災対策予算が占める割合は、2014年度0.6%、2015年度0.5%となっています。
国家防災対策資金:
2014年度130億ペソ
2015年度140億ペソ

国家防災対策予算に国家資金(自己資金)が占める割合:
2014年度 国家資金37%、ODA他資金63%
2015年度 国家資金30%、ODA他資金70%
お気の毒としか言いようのない国家資金です。

国家防災対策予算内訳:
・治水排水事業 2014年度336億2千万ペソ、2015年度448億4千100万ペソ
・統一マッピングプロジェクト(2015年度新設)2015年度3億9千800万ペソ
・災害アセスメント全国運用システム 2014年度9億2千100万ペソ、2015年度11億5千300万ペソ
・地質災害アセスメント 2014年度4億3千100万ペソ、2015年度8千900万ペソ
・地震・火山監視及び防災情報有効活用強化プログラム 2014年度800万ペソ、2015年度800万ペソ
・火山・地震・津波警戒強化システム 2014年度1千万ペソ、2015年度900万ペソ

アキノ大統領の目論見では防災対策予算は国家資金で60%賄い、40%を先進国からの無償/有償のODAなどに頼る計算でした。しかし上記のように現実は40%すら満たしておりません。アロヨが任期終了前までに持ち出してしまったからです。

現状のフィリピンの防災対策は=インフラ整備に尽きます。国家資金不足や抵抗勢力(人間のクズの集まり)からの妨害をいちいち嘆いていても何も解決できません。大統領は前に進むしか許されないのです。2013年2月のフィリピン開発フォーラム総会に於いて、政府のインフラ支出をGDP比で2.6%から2016年までに5%に上げることが宣言されました。また2015年のAPEC首脳会議開催に向け、インフラ整備加速を示唆する発言が各関係閣僚から頻繁に出されています。アキノ大統領のフィリピン政府として残り1年半ですが、現在でもこの国の将来を決定するインフラ事業を加速化させようという強い姿勢が感じられます。

マーケティングの観点で云えば、上記2014年と2015年の国家防災対策予算を見ても、1年で予算が115億ペソ(約295億円)と増加していることから、今後も15~30%の防災市場成長率を見込めます。現在の国家防災対策予算内訳では、治水排水事業がその殆どを占めますが、このインフラ事業に目処が立ち始めていること、インフラの次はシステム、プログラム構築及び強化への資金投入が増大すること、そしてその為の外資規制緩和への期待が大きいことから先進国から再び注目を集めており、今後は一層の外資企業参入傾向が加速化していくものと考えられるからです。

国家災害危機削減管理評議会(NDRRMC)の前身である国家災害調整評議会(National Disaster Coordinating Council/略称NDCC)の歴史は古く、1978年公布の大統領令第1566号により創設されたものです。目的は防災能力強化と地域社会の災害準備に関する国家的な計画の策定、そして防災計画、災害対応や復旧における官民におよぶ各機関の協力調整を図ることでした。日本でしたら当たり前ですが、防災強化への取り組みとしてNDCCは災害が起こってから対応するのではなく、災害が起こる前に被害軽減の活動を行っていくための体制作りが重要点でした。歴代大統領が防災予算を私服を肥やすために搾取することなく防災事業に全力を注いでいたならば、近年の台風被害も最小限に食い止めることができたのかもしれません。まさに自然災害にプラス、汚職政治家による人災が加わった典型です。私は常にそういった汚職政治家たちを非難する記事を掲載していますが、日本の商社とつるんで汚職に走ったあげく晩年は悪妻の腹話術人形だったマルコス、汚職女性大統領として世界の歴史に名を刻んだアロヨ、そして次期大統領有力候補だが見かけはトライシクル・ドライバーみたいな人間を選択してはいけないと主張している根本はそこにあるのです。

アキノ大統領は2010年に新防災法として「フィリピン災害危機削減・管理及び復興法」を成立させています。この新防災法は、ガバナンス、リスクアセスメント、早期警戒、教育・啓発、根本的リスク要因の軽減、効果的な災害対応と早期復興のための災害対応準備など、災害リスク軽減から災害管理、復興など全ての面に及ぶ活動や方策に関する政策、計画の策定および実施を含むことで画期的なものであるとの国際的評価を得ています。大統領の政策に従い、NDRRMCはOCD(市民防衛局)の活動を通じ国連国際防災戦略事務局及び国連開発計画の支援により、2019年までの防災活動として優先すべきプログラムやプロジェクトのロードマップを示す戦略的国家アクションプランを発表しています。

長くなってきましたので、ここで日本企業により導入されている防災監視システム(含計画策定)を紹介します:
・フィリピン、ピナツボ火山監視無線システム(コムフォース社)
・フィリピンスービック港CCTV監視/PAシステム、及び5GHz OFDM バックホール(コムフォース社)
・フィリピン海上保安通信システム強化計画完成(2009年4月/日本無線社)
・テロ対策等治安無償「フィリピン沿岸警備通信システム強化計画」(2013年6月/JICA)
・フィリピン科学技術省向けIP映像配信システムをベースとした実験用「災害時用ブロードバンド・無線システム」(2014年7月/OKI)

上記は全て特筆すべきシステムであり、それらは日本の優れた技術によるものだと国民にもっと知らしめるべきだと思います。特に、科学技術省と気象庁の協力により公開されている「フィリピン洪水ハザードマップ」(http://www.nababaha.com/ )という、各自治体レベルで洪水警戒区域を見ることが可能なウェブサイトがあります。これは公開されている地図内の自分が知りたい区域をクリックしていくことにより、詳細な洪水ハザードマップを見ることが出来る仕組みになっています。使い方が分からない人にはYouTube動画が地図の下に埋め込まれており、これを見れば誰でも簡単に知りたい区域のハザードマップを見ることができるという優れものです。未だ見たことがない人は是非ご覧になって、大部分が見過ごしているに間違いない一般庶民の方たちに教えてあげて下さい。これは政府機関ですので同時にFacebookやTwitterでも情報を公開しています。

またアテネオ・デ・マニラ大学と科学技術省による「マニラ気象台」というウェブサイト内に「環境災害に対するフィリピンの脆弱性解析(http://vm.observatory.ph/hazard.html )というページがあります。ここでは火山、台風、地震、津波、猛暑、豪雨、エルニーニョ、地滑りなどといった自然災害別にハザードマップが公開されています。これは上記2014年7月にOKIがフィリピン科学技術省に提供した実験用「災害時用ブロードバンド・無線システム」が、科学技術省からアテネオ・デ・マニラ大学に移管され同大学の学生の手で作成されたものなのです。各マップをクリックすれば拡大図と地域毎の警戒レベルが一目瞭然となるようになっていて、日本企業の技術協力と科学技術省及びアテネオ大学の連携がお見事と言うしかありません。

続く

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2014年12月9日火曜日

フィリピンの防災体制はどうなっているのか(その1)

フィリピン中部を横断したRubyによる被害のニュースが日本でも報道されています。当社にも日本の様々な方々から「気をつけて」といった連絡をいただき本当に感謝しております。

さて、今回の政府の対応は今までお座成りになっていた防災の基本である「事前伝達」「避難誘導」、そして何よりも大切な「住民たち自らが居住地のハザードを理解・認識・判断し行動する」という点で、非常に評価できる成果であったと私は考えています。

さすがにOndoy、Pepeng、Yolanda、Glendaといった大型台風により立て続けに大被害を被っている事実からそれらを教訓にせざるを得なかったのでしょう。この国の人々を迅速に行動させるには理屈ではなく恐怖体験から来る条件反射なのかなと思いました。

幸いにもRubyが失速したこともあってマニラ首都圏では大きな被害はなかったように見受けられますが、私が一番注目したのは、ハザードマップに基づきマニラ首都圏開発庁(MMDA)と各自治体が力を合わせ、各地域の住民を避難させている姿でした。

避難所はイヴァキュエイション・センター(Evacuation Center)と呼ばれていますが、現実には小学校の校舎・施設を利用しています。今までフィリピンでこのような避難誘導の様子が報道されることは殆どありませんでした。被災の最中や被災後に出動し被災者を救出する活動ばかりが目立っていました。それはそれである意味美しい姿ではありましたが、たとえば洪水で流される人を救出しようとして命を落としている隊員もいた訳です。つまり「人命を守る」方策のあり方が問われていなかったために数多くの悲劇が起こっていたのです。

防災よりも被災地の事後対策という意識が先行するあまり、防災対策予算も無に等しいものでした。被災地の人々への救済事業や事後対策のインフラ事業の方がパフォーマンスとしてインパクトがありますし、この国の政治はそういう演出をすれば国民に支持されるものだという悪しき風潮が、それを糾弾する人間がいないことから未だに存在しているのです。

そこで今回はフィリピンの防災体制がどのようなものになっているのか紹介します。ただし非常に長文になるので数回に分けていきます。今回は「その1」です。

先ず災害伝達体制は 
大統領府(Office of the President/通称マラカニアン) 
国家災害危機削減管理評議会(National Disaster Risk Reduction and Management Council/略称NDRRMC) 
市民防衛局(Office of Civil Defense/略称OCD) 
気象庁(Philippine Atmospheric Geophysical and Astronomical Services Administration/略称PAGASA=パガサ) 
以上の4機関情報交換及び協議によって決定された伝達内容が、地方災害危機削減管理局と都市災害危機削減管理局の2経路で送達されています。

送達方法はSMS(フィリピンでは「テキスト」と呼ばれるショートメッセージ)、電話、FAXなのですが、一番利用されているのはSMSです。

地方災害危機削減管理局は州災害危機削減管理局、地方自治体災害危機削減管理局という経路で、その地方自治体に属するバランガイ災害危機削減管理課に伝達しています。一方、都市災害危機削減管理局は都市に属するバランガイ災害危機削減管理課に伝達しています。

しかし末端組織であるバランガイ災害危機削減管理課は現実にはバランガイ長の管理指導力が頼りになるため、伝達内容が住民に徹底されるのかどうか全くあてにできません。バランガイ長がアホであったならばその地域の被災者が増えるだけなのです。

そういった危惧もあってか政府は別に国民への伝達手段を講じています。国民の利用者数が5千万人を超えている「Facebook」を始めとしたSNSの圧倒的利用者数を誇るフィリピンでは、全ての省庁や行政機関はWebサイトだけでなく「Twitter」と「Facebook」のアカウントを持っています。そしてこれを利用した国民への伝達を行っており、国民にとって欠かせない情報媒体となっています。所得階層別での災害認知方法の差異は、ネット等で知り得るのか、バランガイからの伝達や口伝、テレビ、ラジオなどで知り得るのかの違いだけなのです。しかし貧困層や地方の未整備地域住民にとっては、バランガイから非難行動などの伝達や口伝が唯一の頼りであることは、考えようによっては大きな差異と言うことも出来ます。

テレビ局、ラジオ局、新聞社などのメディアサイトでも同時に情報発信を行う体制が整っており、特に2局ある国営テレビでは文字放送とアナウンスにより様々な情報を24時間体制で放映しています。

さらに国民のコミュニケーション手段として利用者数が多いSMSを有効活用しようということで、2014年8月には下院議会に於いて天災人災を問わず災害が発生した場合に、フィリピンの通信キャリア各社に対しSMSによる無料テキストアラート送信義務付け法案が下院承認されています。下院法案「携帯電話災害アラート法」では、『携帯電話のアラートなど現代の通知システムは、既存の非効率的なシステムを補完するために必須であり、各通信キャリアは、災害関連機関の要求に応じて消費者に対し定期的にアラートを送信すべきであり、災害発生緊急時には各機関からの最新情報を緊急アラートとして送信する義務を負う。そしてこれら全てのアラートは無償とするべきである』としています。また被災地内若しくは被災地近辺に位置する移動電話加入者に対し、地方自治体の第一応答者、避難場所、救援に関する連絡先情報を含めるものとなっています。

2013年の台風Yolanda被災以降にJICAが実施した災害伝達体制の機能確認では、市民防衛局や気象庁による予警プログラムが整備されており、台風の発生直後から災害情報を把握、予報と警報は大統領府から州、市町村レベルまで十分に伝達されていたこと、バランガイレベルでも住民に対し避難行動を呼びかけるなど一定の努力が確認されています。

しかしながらその一方では、Yolandaが過去に例を見ない大規模な勢力だったこと、2013年以降に地方防災計画が順次策定していった移行開始期にYolandaが発生したため、まだ住民個々のレベルでの理解深化には至ってなかったこと、台風に伴う高潮発生がタクロバン市など地方レベルの防災担当者にとっては想定外の事象となってしまい、住民に対する災害情報伝達に影響が出てしまったことなどが要因で、大きな人的物的被害が発生したのは記憶に新しいことです。

想定外の被災というのは、世界で最も優れた防災システムを持つ日本であっても起きていることですので、開発途上国であるフィリピンということを考えれば仕方がないことなのかもしれません。しかしフィリピンの問題は想像以上に深いところにあり、それが原因で自然災害に人的災害が加わって被害が拡大することにあります。

続く

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2014年12月7日日曜日

フィリピン・マーケティング/教育改革「K to 12」で広がる若年層の可能性

フィリピンは初等教育6年間、中等教育4年間の6-4制でアジアで唯一中等教育が4年間しかない国でしたが、2012年に施行された教育制度改革「K to 12」により他の国々と同水準になりました。これを何だ2年間増やしただけじゃないかと考える人は、この国をダメにしている最大の原因が「教育」であることを深く理解する必要があります。

システムとしては6-3-3制だ、いや6-6制だという情報が飛び交っていましたが、実際のシステムは6-4制から6-4-2制への変革です。

この国では6年制の小学校(Elementary/初等教育)、そして4年制の中学校(High School/中等教育)を終えると、そこで若年層教育がストップし進学しない/できない国民は、その時点で人生に於ける学習脳を閉じていました。進学できる国民はカレッジと呼ばれる専門学校やユニヴァーシティと呼ばれる大学に進学していました。ハイスクールを高校、カレッジを大学と勘違いしている日本人の方が非常に多いのですが、それを日本基準に合致させて考えるのはとんでもない大きな間違いです。

つまり本当の意味での中等学校になるということで、6-4-2制の6はElementary School、4はJunior High School、2はSenior High Schoolと呼ばれることになりました。Senior High Schoolは中等教育過程なのに日本では高等学校と呼んでいますが、同じ6-3-3制のアメリカでは中等学校(シニア)という扱いです。

6-3-3制ではなく6-4-2制としたのは、6-4が修了した時点で残りの2年間をカレッジで修了可能という措置を講じることにより、K12改革前までこの国をある意味支えてきた教育産業を破壊してしまうような制度変更を回避する配慮からです。しかしこの措置は暫定的なものと考えられ、6-4制の影響がなくなる時点で6-3-3制に移行する可能性があります。新制度は今後カレッジなどの教育産業にも求められる変革に対し与えられた一定の猶予期間とも考えられるからです。

この改革により恩恵を受けるのはもちろん国民ですが、ただの恩恵ではなく彼らの将来や人生設計を劇的に変える可能性を持った改革としてフィリピン史上に於いても画期的なものとなることでしょう。

というのは旧制度では日本の6-3-3制や、それと類似の制度を持つ国々に比べると、基礎教育(初等・中等教育)が2年間少ないにも関わらず、他国の12年間に相当する学習内容を10年間の詰め込み教育で実施していたため、落ちこぼれる生徒の増大によりその先の進路に於いても決定的な基礎学力低下を招く結果となっていたからです。各種国家試験合格率の低下も著しく、これも全て旧教育制度による最大の弊害であった基礎学力の低下に原因があります。

またこの旧制度は落ちこぼれ生徒増大や基礎学力低下を招いただけでなく、低所得者層の貧困脱出を困難に陥れ、更なる貧困の拡大という負の連鎖を生むに至りました。その理由は就業年齢の問題です。フィリピンの就業年齢は成人年齢と同じ18歳です。しかしながら中等教育修了年齢は旧制度では16歳でした。驚くべきことですが、進学しない者はハイスクール卒業と同時に2年間の失業状態となっていたのです。国家全体の失業者数の約30%をハイスクール卒学歴の者が占め、さらに言えば失業者の約50%が15歳から24歳の若年青年層なのです。

ハイスクールを卒業しても2年間の教育期間不足により海外留学もできない、海外出稼ぎ労働者(OFW)となった優れた資格を持つ人材であっても、2年間の不足により常に一段階下の資格ランクとしか見做されず、人材輸出産業国と言われるフィリピンの国益を大きく損ねてきたのです。

このフィリピン最悪の制度であった教育制度の改革により、低所得者層であってもハイスクール卒業と同時に就業できることになったことは勤労学生の増加を生むことにもなり、結果として教育機関の活性化、そして基礎学力が充実した優秀な人材の増大にも繋がる大改革と言えます。今まで貧困層は永久に貧困層のままでいるしかなかった彼らの未来が、自らの意志と努力でも変えることが可能になったのです。そしてこれが意味するところは、現在でも年々増大している中間層に、低所得者層/貧困層を脱した中間層が加わるため、その割合が今後は拡大し続けていくことは明白です。マーケティングとしては、この新中間層をターゲットとして取り込んでいく戦略をイノベーションプランに加えていくべきであると考えています。

注)当コラムの著作権は全てフィリピン法人Barros-Kei Corporationに帰属します。これらのファイルを許可無く複製、転載、流用することを禁止します。

2014年8月8日金曜日

フィリピン離婚承認裁判/不正で2つの地方裁判所が引き続き監視リストに

この画像は当社の離婚承認裁判手続によって昨年10月に判決文が交付され、本年2月に取得した離婚承認注釈が付与されたNSO(国家統計局)前婚姻証明書です。

順に説明すると 
1.向かって左側が戸籍謄本に基づく日本での離婚年月日、当事者氏名の注釈 
2.右側がマロロス市地方裁判所による離婚承認の注釈 
離婚承認裁判注釈はこのように必ず左右に注釈が入ります。

しかしこの文書では下にも右側と同じような注釈が入っています。何故なのかお分かりになりますか?

そうです。 
右側は不正が蔓延っていることで有名なマロロス市地方裁判所に於いて、裁判文書偽造により不正登録申請された結果、国家統計局(NSO)が登録してしまったものです。

これをつかまされた人は日本で再婚手続をするため駐日フィリピン大使館で婚姻要件具備証明書の申請をしましたが、本国への確認によって正規の裁判手続を経て登録されたものではないということで申請が却下されました。マロロスでの裁判手続は、その方の母親が在比日本大使館周辺のマドリガルコンパウンドにある業者に依頼したものでした。その業者はすでに会社を閉鎖し行方が分からなくなっています。(当社の勧めによりその顧客は詐欺罪及び損害賠償請求で同社を提訴中。日本の行政書士にはこの周辺の業者に裁判を丸投げしている輩が多い)

その方は在留期限が迫っているため行政書士、弁護士などを含めいろいろな人にあたりましたが、それぞれ言うことが異なり十分な知識もない様子だったので、最終的に離婚承認裁判と結婚手続の顧客で、すでに再来日をしているフィリピン人の友人と日本人夫の薦めを聞いて当社に依頼してきたのです。

マロロス市地方裁判所に於ける調査では、民事事件番号や担当裁判官は確かに存在するが全くの別事件であることが判明しました。そもそも離婚承認裁判は民事事件番号ではなく特別訴訟番号になります。業者はそのことが理解できていなかったのでしょう。見る人が見ればすぐに偽造だと判ってしまう子供騙しです。そこで当社専属弁護士によりNSOに申立をした上で、新たに違う地方裁判所に於いて離婚承認裁判を行いました。提訴前には在留期限が切れるのでこの方は帰国しています。

そうして約10ヶ月かけて審決し更に4ヶ月かけてNSO登録に至ったのが、最初の画像の注釈付前婚姻証明書なのです。当社にはこのように意図せず被害者となってしまった方が相談に来て、お話した結果裁判をやり直している顧客が現在4名います。

このような不正は日本人業者を中心に頻繁に行われています。マロロスの他にはカビテ州イムスが未だに数が非常に多い。この2箇所の地方裁判所は昨年NSOの監視リストに入ったにも拘らず、一向に改善が見られないということで都合5年間監視リストから外れることはなくなりました。

依頼者の自業自得/自己責任と言えばそれまでですが、原因は依頼者が早く裁判が終わることを最優先してしまうからです。そういう需要があるので馬鹿なことを考える業者が出てくるのです。このような業者は何れ捕まるでしょうし請け負った弁護士も資格を失うことでしょう。依頼者は期間も費用も全て無為に費やしたことになり偽造公文書行使等罪に問われる可能性もあるということも忘れてはいけません。フィリピンに関わる、若しくは進出を計画する企業などを例に考えても、コンプライアンスを重視するところは絶対に大きな失敗はしないのです。

ところでNSOの話が出ましたが国家統計局(National Statistics Office、通称NSO)はすでに格上げされフィリピン統計庁(Philippine Statistics Authority、通称PSA)に名称が変わっています。しかし馴染まないのか国民は今もNSOと呼んでいます。長官は長期間の在任であったカルメリータ N. エリクタ(Carmelita N. Ericta)氏(カメリタ・エリクタという翻訳は誤り。本人が可哀相。今からでも直しましょう)から、リサ グレイス S. ベルサレス、博士(Lisa Grace S. Bersales, PhD)氏になっています。Phd=博士(Doctor of Philosophy)という肩書きがあるのはフィリピンでは珍しくないことです。統計庁長官とは関係ないだろう、何で?という方も多いと思いますが、これはい云わば社会的地位を表すもので、その国家資格取得者であることを示すために氏名の前後につけているのです。

ただし何でも付けられるわけではありません。つけられている資格は、専門職資格管理委員会(The Professional Regulation Commission、通称PRC)や最高裁判所司法試験委員会(Supreme Court Bar Examination Committee)等で得られる国家資格です。弁護士、医師、エンジニア、会計士、看護士、教師、船員など国家試験にパスした者だけが得られる、フィリピンではエリートの証明と言っていい資格のことです。このような資格を持つ者はOFW(海外フィリピン人労働者)としての雇用も優遇されるのです。従ってフィリピン国籍者のみがこれに該当するので、フィリピンにいる日本人でこのようなフィリピン国家資格の肩書きを使っている者がいたら、それは何か良くない目的がある人間と考えて間違いありません。

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2014年4月4日金曜日

フィリピンに於ける駅ソト・KIOSKビジネスの考察

リゾート地のリサーチと裁判手続の業務に集中していたためしばらく記事掲載が出来ませんでしたが、仕事をしながら『フィリピンで駅ナカビジネスならぬ駅ソトビジネスはどうなんだろう?』という考えを想起しました。そこで今回はフィリピンの鉄道の集客力を利用したビジネスで、駅ソトビジネスの将来性について少し考えてみることにします。

駅ソトとしたのは、日本のように駅ホームに設置できない規制や、コンコースを持つ駅も限られているフィリピン事情からです。

マニラ首都圏を走る軽量旅客鉄道である軽量軌道交通、MRT(Metro Rail Transit Corporation管轄)とLRT(Light Rail Transit Authority管轄)ですが、それら当局の調査によると全路線での合計では一日あたり100万人を超える乗客数であり、その内の約34万人が学生、50万人が常勤社員となっています。

このMRT、LRT駅ソトビジネスの長短所を考察すると、 
長所: 
1.駅自体に圧倒的な集客力がある。 
2.早朝から集客可能である。 
3.駅毎に多様な地域性を持つ。 
4.ターゲットを絞り易い。

短所: 
1.飲食など購買が第一目的の客は少ない。 
2.滞在時間が短い。 
3.店舗スペースが制約される。 
4.終電後の営業ができない。 
という点が挙げられます。

これを元に先ずビジネスとして考えられるのが、スクールサプライとフードビジネスになります。学生数が多いのを放って置く手はありません。店舗は可能な限り広いスペースに出来るのならば、コンビニやカフェスタイルというアイデアも活かせます。店舗は目立つようにラッピングしてしまうのも良いですね。広告が入ったフィルムで店舗全体をラッピングしてしまうのです。

短所に挙げた滞在時間の短さは、販売するものを工夫し長所に転じさせればいいだけの話ですし、短所が多くあってもそれが具体的なものならばターゲットが絞り易くなるのです。

フィリピンでは鉄道、バスの利用者が多く、他の交通機関と比べて外国人乗客数の伸びも期待出来ます。フィリピンのターミナルサービスはまだまだ未成熟なので、鉄道にしろバスにしろ、そのターミナルの圧倒的な集客能力に着目していくと面白いことになるのではないかと考えています。

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2014年3月9日日曜日

フィリピン離婚承認裁判/駐日フィリピン大使館・領事館の杜撰な司法共助要請の実態

国際司法共助とは
例えばフィリピン国内の裁判手続に於いて、日本に在住する人物・団体に提訴状や召喚状などの文書送達を行う場合、両国間の国際司法共助が必要となります。すでに過去の記事でも送達手順を簡単に述べていますが、日比間の国際民事事件では管轄のフィリピン地方裁判所(RTC)裁判官によりフィリピン外務省(DFA)に日本に対する司法共助要請を行います。それを受けてDFAは宛先人住所により管轄圏別に振り分け、駐日フィリピン大使館若しくは領事館に送達を行います。(これはDFAの間違いであることは後述に)送達は国際スピード郵便(EMS)で行われ併せてFAXでも通知をしています。FAXの通知内容はEMSを受領後FAXでDFAに連絡をすること、そして日本外務省(MOFA)に必要書類と円指定の手数料を添え郵便局から司法関係送致文書として送達すること、の2点が重要なこととして記載されています。

長期間を要する司法共助手続
一方日本側での司法共助要請に対するルールは、駐日フィリピン大使館(署名権限者は同国大使)⇒MOFA領事局政策局(署名権限者は日本国外務大臣)⇒最高裁判所(署名権限者は最高裁判所所長)⇒管轄地方裁判所という流れになり、地方裁判所所長名にて宛先人に付郵便送達されます。そしてその受領証明については逆のルートとなります。

このルートで考えられるのはRTCから送られた文書が宛先人に届くまで早くても2~3ヶ月かかり、その受領証明が同RTCに送達されるまで、また同様の期間がかかるということです。つまり離婚承認裁判公判開始に必要な受領証明取得には、半年から長ければ1年かかることになります。

当社独自の実態調査結果
しかし当社で日本外務省領事局政策局に問い合わせ調査したところ、『2008年3月以降離婚承認裁判に関する司法共助要請は数多くあったが、その何れもが必要書類等が不足しているので駐日大使館に返送している。返送後に不足分を添えて司法共助再要請があったことは一度もない。つまりフィリピンに限って言えば司法共助要請が成立したことは一度もない』と断言されました。

さらに必要書類等不足についてDFAに説明したいのでその文書を求めました。MOFAでは当社の要求は直接受け入れることは出来ないということなので、当社専属弁護士からリクエストレターをメールで送り、「司法共助要請に関する必要書類についての説明」を添付ファイルで返信してもらいました。

そして『MOFAとしては本文書の扱いについては当社に一任し、今後フィリピン外務省から直接問い合せなどがあればそれは対応出来る。MOFA領事局政策局にも職務権限範囲があるので理解してもらいたい』という返答を即座にしてもらい日本行政の素晴らしさを再確認しました。

リクエストレターへの回答内容を箇条書きすると、
1.先ず駐日大使の署名の司法共助要請文書がない。
2.日本国での送達手数料が同封されていない。
3.駐日フィリピン領事館には司法共助要請権限がない。従って領事館からの要請は全て却下、返送している。
4.返送の場合も送達費用は在日大使館負担であるにも関わらず過去に於いて一度たりともその支払がなされていない。
という驚愕の内容で、非常に残念でしたがフィリピン行政官・事務官レベルが日本の小学生以下であり、その馬鹿さ加減に於いて世界有数の国民であることがはっきりしました。

また前の記事で言及したDFA行政官から、【裁判の提訴状・出頭命令文書には日本語翻訳文が必要であり、在比日本大使館が認める翻訳会社による翻訳及び認証印を受けること】についても併せて確認しました。

正規手続もまともに出来ない駐日フィリピン大使館
MOFAの答えは、『文書の日本語翻訳文は不要。翻訳の責任は受取人に帰するので、受取人が英文を理解できないのならば翻訳するのは受取人の義務である。フィリピン国内の事情に関しては言及は控えさせてもらう』ということでしたのでその回答を受けて在比日本大使館に確認しましたが、『そういう事実は一切ない。フィリピン外務省に確認しクレームを入れる』という回答を受け、DFAの上級行政官に当社としてもその旨を伝えています。

またその際にDFAが大使館圏と領事館圏に振り分けて送達していることは誤りであり、駐日領事館にはこれに関わる権限がないということも文書で提出しました。そしてその後は日系業者とDFA行政官の癒着の確たる証拠であった翻訳手続を要求されることはなくなりました。

この一連の事実が判明したのも元々は駐日フィリピン大使館の杜撰さからです。

当社で行っていた離婚承認裁判手続が公判前の段階で進まなくなりました。それまでは一度もそのようなことはなかったのですが、日本人前夫への提訴状・出頭命令の送達証明取得が約5ヶ月に渡り滞りました。それまでは約1ヶ月程度で出来ていたので送達ルートの洗い出しを行いました。

先ずDFAの上級行政官に相談したところ、『駐日大使館に毎週月曜日に状況報告の督促状を送っているが返信が一切ない。毎週火曜日に返答確認で問い合わせてほしい』とのことでした。

全てその場逃れの駐日フィリピン大使館対応
そして駐日フィリピン大使館に電話で問い合わせましたが、皆さんご存知の通り何回かけても電話を取ろうとしない。やっと繋がって用件を述べると『調べるので2時間後に電話してほしい』2時間後に電話をしたら『今まだ調査中なので明日電話してほしい』翌日電話をかけると担当者に代わると言ってたらい回し。20分くらいしてやっと『・・月・・日に日本外務省に送付した記録がある』との返答を得ました。

何故調べるのに時間がかかるのかお分かりになりますか。

駐日大使館に届く郵便物管理と記録管理の問題です。彼らは郵便物はダンボールに投げ込むだけ、FAXは垂れ流し、記録帳簿は字が汚くて判読できず、PCでの管理能力なし、だからです。

そこで上述の通りMOFA領事局政策局への問い合わせとなったのです。MOFAでは1分ほど事情を説明している間に、宛先人検索だけで瞬時にデータが出ていました。MOFAではさらに『この後すぐに駐日大使館に確認の電話を入れ明日中には御社に連絡をする』とまで言ってくれました。

しかし翌週になっても連絡がないのでMOFAに電話をすると『MOFAから却下、返送した文書はその当日の内に駐日大使館で受領した、という確認をさせた。そして御社にはその内容を伝えることになっていると話すと、大使館が連絡をするからMOFAから連絡はしなくていいと言うので御社の電話番号を教えた。従ってMOFAとしてはすでに大使館から御社に連絡がいっているものと思っていた』

これを聞いてMOFAに対してさえも言い訳、ウソで逃れようとする駐日大使館。これこそがフィリピン共和国の真の正体なのです。まともな国民たちは本当にお気の毒です。

この事件では当社はこれ以上駐日大使館には期待できないという判断をし、結局日本人前夫から委任状を受け提訴状及び出頭命令の直接受領の宣誓供述書を作成、公証役場での公証とMOFA認証を取得し駐日大使館でそれらの文書を認証、そしてDFA認証を付与した上でRTCに提出し公判を迎えることが出来ました。

やはり日本外務省が最後の頼みの綱に
最後に公判が終わった後にお礼と報告の連絡をMOFA領事局政策局にしました。MOFAからは以下の内容を伝えられました。『御社の尽力と機転には感心するし、その方法如何についてフィリピン裁判所で合法として受理されたのであれば、当局としては関知するものではない。本件は法律上「司法共助要請」と呼ぶものであり、当該国間の外交上に関わることなので相手国に内政干渉することは絶対にできないということを前提に考えてほしい。従って事件について要請があれば外交ルールに則り可能かどうか判断・検討し協力できるところはするが、フィリピンの対応が悪いとか、こうした方がいいとかの助言はできないし、相手国を中傷するようなことは絶対にできないので理解してほしい』

ところでバギオ在住?の方のブログで、バギオに領事出張サービスがあった時に、領事から離婚承認裁判文書の送達ルートについて聞いたということでフィリピン国内から日本までのルート記載記事を見ました。これはおかしいですね。記事にすること事態非常に軽率ではないですか。領事は上述の通り職務権限範囲があるので言及できないのですよ。日本国内での司法共助ルートについては問題ないですが、フィリピン国内のルートにまで口を滑らしたのであれば、その領事は厳重注意や懲戒の処分を受けることになるので、それは絶対にないと思いますがね。

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2014年2月26日水曜日

フィリピン離婚承認裁判/情報に振り回される人たち

安易に信じてはいけないネット情報フィリピンにおける離婚承認裁判についてネット検索すると、違法行為や誤報で溢れかえっていて、どれが真実か判断出来ない人も多いと思います。またさらに始末の悪いことには、ブログだけでなくYahoo!知恵袋などのQ&A系サイトでも、かなりいい加減な情報が掲載されていることがあります。

昔の情報のままアップデートできていない人が多いのですが、中には『うちでは裁判をやらずに済ませることができる』と、堂々と不正を行っていると宣言しているブログや、『殆どの人が知らない方法がある。そのやり方なら再婚できる』など、フィリピン国内での合法手続を無視しているようなものもあります。

以前の記事でも触れてきましたが、日本の常識、モノサシで考えることではないのです。合法的というものがどういう意味なのか考えてみてはいかがでしょう?
偽造文書や不正手続が横行
現在、国家統計局(NSO)では離婚承認裁判に於いての不正手続で、中央ルソン地方やカラバルソン地方にある地方裁判所(RTC)数箇所で、頻繁に偽造判決文使用で不正登録が行われている事実を掴んでおり、それらの地方裁判所と地方民事登録局(LCR)を要注意のウォッチリストに入れ注視しています。

提訴状や判決文、審決証明には特別訴訟番号が必ずあるので、その番号から偽造であることが簡単に判明するのです。

当社で調査した案件では特別訴訟番号が離婚承認裁判のものではなく、他の事件番号を使っていて、裁判官も離婚承認裁判担当ではない人物名と署名がされていました。この不正を暴いたことによってその地方裁判所の行政官1名、そして地方民事登録局行政官と職員3名が懲戒免職となっています。

またそれに関わった業者は、日本大使館周辺にタムロするフィリピン人ですがすでに逃亡しており、日本人スタッフもいたというオフィスはすでに閉業しています。

しかし離婚承認裁判を必要とするフィリピン人は増え続けているため、同じ被害を受ける人の数も減ることはないのではと危惧しています。
そもそも離婚承認裁判はいつ始まったのか
フィリピン国内でこの裁判手続が初めて取り沙汰されたのは、私の記憶では2008年3月のことになります。

この問い合わせは日本国内で離婚したフィリピン人が、大阪のフィリピン領事館にて別な日本人と結婚するために婚姻要件具備証明書を申請しようとしたところ、本国での裁判判決文と審決証明を求められたことからでした。

当時フィリピン国内では離婚承認裁判自体判例がなく、殆どの人は婚姻無効裁判(アナルメント)でそれを解消していましたので、当社でも合法的に行うことを前提でアナルメントをお勧めしましたが、その時は問い合わせだけで話は終わっています。
その後1年間で問い合わせが増加それから2009年2月までの1年間で同じような問い合わせが7件続きました。また2008年3月頃に始まり2012年10月末までの間に、駐日フィリピン大使館・領事館では数回に渡りこの件に関し迷走しています。

フィリピン人離婚者で本国での裁判手続を行っていない人に対する婚姻要件具備証明書の発行をオープン/クローズしています。酷いのは大使館でOKなのに、領事館ではダメ、またその逆であったり、1回目の離婚に限ってOKとか、担当職員によって受理不受理があったり、申請必要書類も担当職員によって言うことが違う等々、いかにもフィリピンらしい本当に見事なまでの迷走ぶりでした。

それが2012年11月になってやっと大使館・領事館ともコンセンサスがとれたようで、現在までは本国での離婚承認裁判を経た上で再婚可能となる方式になっています。

従ってこの2012年11月以降のことしか知らない人が、この時期から離婚承認裁判を行うようになったと勘違いしていて、現在まで判例がないというようなブログを見かけましたが情報不足ですね。当社では2009年9月に離婚承認裁判をスタートしています。
対訳を離婚承認裁判と名付け当社業務に加える
2008年10月から当社で3ヶ月間かけて民事登録局を中心に行政機関を回って調査したところ、地方裁判所での民事裁判「Judicial Recognition and Enforcement of Foreign Divorce」という特別訴訟がそれに該当することが判明しました。事件名が長いので「Recognition of Foreign Divorce」と略して、弁護士や判事、検察官は呼んでいました。当社では「RFD」と呼んでいます。そこで私は業務とするため「離婚承認裁判」と対訳を付けサイトに掲載しました。

その当時は「離婚裁判」とか「離婚認知裁判」と訳しているサイトがありました。また日本大使館でさえも「離婚認知裁判」としていました。これはRecognition=認知からきていると想像できますが、日本人がその単語から想像するものとしては、しっくりこないので私はあえて「承認」を使いました。現在殆どの人が使っている「離婚承認裁判」の対訳を使ったのは私が最初なのです。

ちなみにRecognitionは認知という訳語もありますが、フィリピンではそれは子供の認知に使いません。ご存知の方も多いと思いますが認知にはAcknowledgmentを使いますよね。

また正式裁判用語「Judicial Recognition and Enforcement of Foreign Divorce」も「海外離婚の司法承認及び執行」と対訳を付けました。

それから離婚承認裁判を【Recognition】リコグニションとフィリピンでは呼んでいる、という間違った情報を伝えているサイトもいくつかありますが、それは大使館周辺で非合法手続によって裁判をやらずに婚姻証明書の左側に
『証明書番号・・・・に従い・・年・・月・・日付日本国・・・・長発行の戸籍謄本に基づく離婚証明書により・・年・・月・・日、離婚が成立した』
というマニラ市民事登録局文書管理課主任の認証を付与している業者が呼んでいるものです。

本来これは裁判が終了し審決証明交付がないと出来ない手続なのですが、金を積んでこの違法手続を行っている業者がまだ沢山いるのです。これでは翻訳文面を読んで分かるとおり裁判を行っていないのは明白ですね。

裁判が終了し最終的にNSOに登録されると左側の認証だけでなく右側にも
『原告・・・・及び被告・・・・の婚姻に関する海外離婚承認裁判の申立は、特別訴訟番号・・・・に基づき・・・州・・・第・・司法区・・支所地方裁判所裁判官・・・・により宣告された・・年・・月・・日付命令に従いここに承認されるものとする』
という認証文面が入ります。

こういったさして難しくもない翻訳すら出来ない業者が、何でも知っているような顔をして営業していること自体も問題です。そしてこういう業者が不正を繰り返しているのです。

この
左右の認証が注釈として付与されることを以って離婚承認裁判の全手続が完了するのです。最初の離婚承認裁判当社での最初の離婚承認裁判依頼客は2009年9月でした。原告はマニラ市役所で婚姻登録をしていたので、マニラ市の首都圏裁判所法廷(Metropolitan Trial Court)で行いました。裁判所はマニラ市役所とマニラ選挙委員会の間に位置し、LRTのCentral Terminal駅の向かいにある、行政監察局(Office of the Ombudsman)ビルと同じ入口から入ります。

話が逸れますが、この行政監察局のオンブズマン(Ombudsman)というのは、日本にある市民オンブズマンとは違います。検察のようなもので特に大きな不正事件の取調べを行うところです。当社の原告公判期間中にフィリピン史上最悪の汚職犯罪人アロヨに関わった大物たちがここに出頭するのを何度も見かけました。
離婚承認裁判は裁判官の無知により暗礁に
原告の公判では裁判官が日本の離婚制度に不快感をあらわにし、署名捺印だけで離婚できる法律を証明する文書を在比日本大使館認証を取って提出するように求めました。私は証人喚問で法廷に立ちましたが、証言内容を裏付ける文書を日本大使館認証を付与して提出しろと言われました。私はその証人喚問の時に日本国法務省サイトに民法の英訳が掲載されているので、そのコピーと日本の某市役所サイトにある離婚手続英語ページのコピーも証拠物件として提出しURLも明記の上ネットでの閲覧を求めたのですが、日本大使館認証がなければ受け付けないと却下されました。

その裁判官が求めたことを日本大使館に伝え認証の可否を尋ねましたが、当然ながら「自分の国の法律を認証しなければならない大使館は、世界中どこを探してもないはず。裁判官が大使館に問い合わせるなら対応する」との答えをもらいました。
裁判官は選べないのでダメなら裁判所を変えるしかない
その答えを持って次の公判に臨みましたが裁判官の主張は変わらず、このままではいつまでたっても終わらないので弁護士に提訴取り下げをさせ、違う地方裁判所に提訴することにしました。(これは裁判所漁りに該当するので合法的手続を行わないと犯罪になります)

裁判官が特に女性の場合は要注意で自分の主義主張を絶対に曲げようとしません。しかしこれは主にローマンカトリックの敬虔な信者で、教会と何らかの深い関係を持つ裁判官にはよくあることなのです。教会は何と言っても離婚や婚姻無効には反対の立場ですし、こういった裁判を行うのは再婚目的であることを彼らも分かっているのです。つまり女性裁判官の視点としては原告の節操のなさを許せないのですね。

話を戻しますがこの時点で7ヶ月が経過しており、当社の離婚承認裁判顧客も他に4名いました。顧客も当社で指定したEx Parte制度のある地方裁判所で公判をしてくれたので、1日の出廷で終了し早い人では全手続が8ヶ月で終わった人も出てきました。(現在は手続が厳格化の傾向にあるため1年から1年半はかかっています)

そこで再提訴顧客も同じ裁判所で行うことにしました。裁判官も前顧客と同じでしたので彼(男性裁判官)も要領を得てきたのか、判決までも早く全手続は最初の提訴期間を入れても1年半で終了しました。

こうやって2010年の末には全ての手続を理解しました。もちろん離婚承認だけでなく他の裁判手続も含めての話です。そうでなければフィリピン国際法務の専門家とは言えませんよね。また現在は手続が次第に厳格化し長くかかるようになったため、期間を合法的に早める方法を駆使したり工夫を怠らないようにしています。
ネット内情報の信憑性
ネット内の情報を拝見する限りでは、フィリピン国内の離婚承認裁判手続を熟知している人は殆どいないようです。中に数名正しい情報、合法的情報を伝えている方がおりますが、残念ながら聞き手側が真偽の判断ができていないという問題があります。さらにQ&Aサイトなどでは自分の情報が間違いであることを受け入れず、正しい情報提供者を誹謗中傷しているのも見かけました。

当たり前ですが掲載されている情報のほぼ100%が、フィリピン人弁護士やその関係者のソースであってその人自身のものではありません。情報提供はマーケティングリサーチにも共通することですが、何と言っても情報のソースがどこからなのかが重要なのです。

また、日本大使館に聞いても分かる人はいませんが、彼らは分からないとは言えませんので「内政干渉になるので教えられない」という返答しか出てきません。フィリピン行政関係者でも自分の仕事に関する情報しか持っていません。総合的把握をするためにはその情報を一つ一つ繋ぎ合わせなければならないのです。

フィリピンに於ける裁判手続の7、8割方理解できていて正しい説明ができる日本人は、フィリピン国内には2、3人しかいないと思います。何故ならばフィリピンに於ける裁判はビジネス英語が問題なく出来て、法律用語を熟知し、公判傍聴し、全ての行政手続に足繁く通った人だけが理解できるからです。


2014年2月24日月曜日

フィリピンOFWが帰国してから始めたマイクロ&スモールビジネスの成功サンプル

フィリピン人海外出稼ぎ労働者(Oversea Filipino Workers - OFW)が外貨を稼ぎ、帰国してから始めたビジネスについてその成否を当社が依頼を受けリサーチしたことがあります。そのデータから女性の元OFW(メイド、ベビーシッター、ホステス)たちが始めたビジネスで、成功していると当社が判断したサンプルについて抽出し列挙します。

手芸・家内工業系

室内装飾品&オーダーメイドカーテン製作、アクセサリー&バッグ製作、ギフト雑貨製作、洋裁&伝統刺繍、子供服・スクールユニフォーム製作、伝統木工品製作、木製家具製作、靴製造、医療用靴&制服製造、プリントTシャツ製作、石鹸・洗濯洗剤製造、惣菜製造、フィリピン菓子製造、ブラウニーケーキ製造、ピーナツ&ガーリックチップ製造、ジンジャー・ティー製造、パパイヤ・ニンジン等のピクルス製造、純ココナツ油製造、魚肉野菜加工、建築塗装、家電修理、厨房器具修理、クリスマスライト&装飾品製造、装飾キャンドル製造、キルト用品製造、絵画制作、室内スリッパ製造、飲料水製造

モーター関係製造業&整備業系

サイドカー製造、自動車部品販売&整備、自動車塗装

フード店系
コンジー&マミ(中華風粥とスープヌードル)、カフェ、バー&レストラン、食品店(グローサリー)、食堂(カンティーン)、ケータリング

農畜産・水産系
有機野菜栽培・蜂蜜製造、養殖漁業

レンタル系
浄水器レンタル、カラオケ機材&サウンドシステム・レンタル、レンタカー

その他
薬局、美容室、スパ&マッサージ、歯科・内科クリニック、リゾート民宿、音楽プロデューサー、家庭用品販売特約店

成功している要因としては、
1.自身の能力をしっかりと把握していること。
2.必要資格取得やセミナー受講に時間や費用をかけてから、無理をせず最低限の資金で始めていること。
3.事業拡張や多角化するため途中で新たな資格取得をていること。
4.コミュニティ・ビジネスに成長させるために地域や省庁の協力を得られる人徳があること。
5.優れたビジネスパートナーに恵まれたこと。
が主なものとして挙げられます。


一方、日本人も含む外国人がビジネス未経験のフィリピン女性若しくはその家族にビジネスをさせるために出資するパターンとしては、レストラン、カフェ、タクシー・FX・バン・ジプニー・トライシクルのオーナー、カラオケバー、スパ&マッサージ、美容院、ブテック、サープラスショップ、語学学校、養豚、養鶏、養殖漁業、インターネットカフェ、コンピュータショップ、ベーカリーショップ、中古車業、フォトショップ、カートフランチャイズがあります。

成功確率はデータとしては持ち合わせていませんが、殆どが失敗しているものと考えます。何故失敗するのか?それは資質、素養がない人間にやらせるからです。

その資質・素養とは自分たちが本当に豊かになりたいと思い真剣に取り組む姿勢です。失敗するフィリピン人にはそれが全くありません。楽をして人よりもお金を稼ぎたいという姿勢しか持ち合わせていませんし、失敗してもどうせ外国人が助けてくれるとタカをくくっています。また出資する方も生活に困らない程度に稼げればという考え方が多い。出資する方もされる方もそういう考え方であればすでに失敗しているのと同じことです。

見極めをしたいのであればサリサリかカンティーンでもやらせればいいのです。あるいは少ない数での養豚や養鶏でもいいでしょう。マネージメント能力の有無は3ヶ月程度ではっきりとします。もし失敗したのであればビジネスをやらせようとは二度と考えないことです。

注)当コラムの著作権は全てフィリピン法人Barros-Kei Corporationに帰属します。これらのファイルを許可無く複製、転載、流用することを禁止します。 

2014年2月23日日曜日

フィリピンでのフードビジネス・コンサルティング(その参)

今回は開業・運転資金、内外装、販促活動、開業後のマーケティングなどについて、フィリピン人オーナー客のレストランを例に挙げ述べさせていただきます。尚このテーマはこれを以って最終回とします。開業までの資金と開業後の運転資金のバランス運転資金は経営が軌道に乗るまでの期間又は撤退するまでの期間で考えます。それを判断するのは既述の通り半年間としますが、撤退する場合にも備え、その1ヶ月前には閉業経費を計算し資金を蓄えておきます。従って運転資金は半年間売上がなくてもランニングコストを維持できる、そしてそれに閉業資金を加えたものとします。ただし半年間は目安であってオーナーの意向や、レストランメニューによってその設定は柔軟に変えていく必要があります。想定以上の成果を収めたフィリピン人オーナーの日本食レストラン当社のコンサルティングを依頼したフィリピン人オーナーの例を挙げますと、彼はそれまで中古車販売&洗車業の店舗を経営していましたが、日本食、特にラーメンや丼物が好きなので、店舗を閉め日本食関係のレストランをやりたいと2011年10月に相談してきました。そこで当社マーケティング&コンサルティングにより2012年3月に開業に漕ぎ着けました。

メニューや内外装、従業員雇用についてはオーナーの強い意向で彼の主導で行いました。ターゲットはフィリピン人アッパーミドル層を中心としました。しかし業務契約内容から当社でサジェスチョンできる部分ではなかったため、味の問題については解消されていないまま開業となりました。

つまりTOKYO TOKYOやRAI RAI KENなどのような、日本食モドキ・レストランが出しているものと何ら変わりばえしませんでした。まともな日本食を作れる料理人を雇用すべきとはアドバイスしましたが、人件費面で難しいということで見送ったのです。
店舗は一番乗りではなく和食レストラン敗退の地レストランは中古車販売&洗車業店舗を取り壊し同じ土地に3階建ビルで建設しました。メトロマニラの中心部から外れた都市のローカル色の強い場所で、優位点は幹線道路沿線、近くに小中学校や病院、マーケットがあるという程度でした。店舗から2キロ以内にRAI RAI KEN、KITARO、TERIYAKI BOY、そしてSUSHI BARの4店舗がありましたが、見事に廃業していることも判明しました。最終コンサルティングに従い営業開始これらの条件からオーナーには次の内容のコンサルティングを伝え了承してもらいました。

1.オーナーが考える価格を下げる。
2.メニューはラーメン4種、カツ丼、中華丼、親子丼、
  チャーハン2種、餃子3種、オムライス2種、チキンライス、
  定食メニューでハンバーグステーキ、豚カツ、
  チキンカツ、焼肉、エビフライ、フィッシュフライ、
  その他当社オリジナルの日比フュージョンメニュー3種とする。
3.上記2の中から麺スープ系以外をテイクアウトメニューとしても提供する。
4.デリバリーは絶対に行わない。リスク管理やコストの観点からテイクアウトで十分。
  その分テイクアウトの容器にコストをかけイメージアップを図る。
5.3ヶ月間はスタッフ教育に集中する。
6.駐車場が狭いので路駐も含め誘導スタッフを1名常駐させ
  客からのメニュー等の質問に対しマネージャーレベルで接客トークできる教育をする。
7.食材品質を維持し、料理人には毎月研修を行い味の向上に努める。
8.毎月1回新作メニューをアンケート記入を条件に無料提供しその反応をデータ化する。
9.店内にCCTVカメラを設置し顧客&スタッフ行動をモニターする。
10. 10ヶ月間は売上が低くても耐える。
この方針で2012年3月1日に営業を開始しました。
開店から5ヶ月間は苦戦想定通り2012年8月上旬までは非常に低調で苦戦していましたので、その後1ヶ月間当社とレストランスタッフ共同による販促活動を行いました。そして2012年10月中旬にオーナーからこの2週間連日大盛況であると報告を受けました。そこでオーナー以下スタッフが気を抜くといけないので、フォローアップのマーケティング実施と同時に、接客サービス再教育、メニュー見直しを徹底しました。

この盛況に火をつけたのは現在も続いているラーメン&豚カツブームでした。折りしもラーメンや豚カツの日系レストランが次々と参入してきた時期に重なっており、販促活動により店舗地域の人々が情報をネット拡散したり口コミしてくれたことも功を奏しました。

日本食は興味本位でモドキ・レストランに行くくらいしか殆どのフィリピン人は知らないし、その味も彼らの口に合わない中途半端さがある。エルミタやマラテあるレストランは地域の危険性の問題から、まともなフィリピン人富裕層やアッパーミドル層は行かない。マカティのリトル東京とその周辺は日系企業勤務の日本人や在留邦人ばかりで入り辛い。

従ってこの店のコンセプトは地域の人々のための和食入門的レストランと設定。人件費・経費の垂れ流しを防ぐため、週6日営業、時間を11時から14時、17時から21時の2部制としました。

その成果は40名客席の1時間稼働率は11時~14時で50%、17時~22時は95%。客の平均滞在時間はオーダー受注後からの計測で50~60分。入るのを諦めた客はテイクアウト注文するのですがこの売上は全売上の10%。一日の顧客数約250名+テイクアウト約15名で一日の平均売上5万ペソ。月の粗利益は75万ペソ、人件費や光熱費等の諸経費などを差し引いて50万ペソ。オーナーもまずまず満足できる成果を上げることができました。

建設費も含めた投資金額は約800万ペソだったので、彼には営業時間を長くしたりスタッフを増員したりしないで維持していけば、減益シーズンを計算に入れても2015年2月までに投資総額を減価償却出来ると伝えました。減価償却は3年と設定していましたのでこのブレークは想定外の嬉しい結果でしたが、味を占めたオーナーは本年1月に新たなビジネスとして、リゾート&ホテル開業のマーケティング業務を契約してくれました。一つの成功は次のビジネスを生むというのがフィリピンに於ける当社ビジネス戦略の一つですが、この店も類に違わず良い連鎖を生んだ成功例となってくれました。
まとめ当社のレストラン開業までの業務内容をまとめると、以下のようになります;
1.基本戦略&コンサルティング
2.マーケティング&コンサルティング
3.マーチャンダイジング・コンサルティング
4.オペレーション・コンサルティング
5.スタッフ・コモンセンス教育
6.サービス・アプローチ教育
7.セールス・テクニック教育
8.トラブル・シューティング教育
9.インテリア&エクステリア・コーディネート
10. テーブル・セッティング&テーブルマナー教育
11. ディスプレイ、ライティング&リネン・コーディネート
12. カメラマンによるフードメニュー撮影
13. 販促活動(WEB、紙媒体、販促グッズ)サポート
14. 顧客&スタッフ行動データ&アンケート分析
15. 定時研修サポート
16. 定期マーケティング&コンサルティング
開業後のサポート第一は販促活動です。これはホームページ、Facebook、Twitter、広告サイトを含めたWEBプロモーション、フライヤー(チラシ)プロモーションやフリーペーパーなどの紙媒体広告利用、試食と販促グッズを組み合わせたプロモーションを中心に考えます。

第二に顧客&スタッフ行動の行動分析とアンケート分析です。一人一人の行動を見逃すことがないように、オーナーにはCCTVカメラシステムを導入してもらいます。アンケートも顧客だけでなくスタッフにも実施しテンプレートでデータ化していきます。そしてデータ分析に基づきコンサルティングを行います。またマーケティングは開業後も重要なので必ず定期的に実施していきます。盛況・不振の如何を問わず地道な作業ですが飽きずに続けることです。軌道に乗ったところで満足・安心してしまうと上昇志向が止まります。上昇停止の次に待っているのは転落開始ということを忘れてはいけません。
ビジネスに再チャレンジする人のために過去に失敗した人であっても再チャレンジを考えているのならば、何故失敗したのか検証することを怠ってはいけません。それがフィリピン人に任せた結果の失敗であっても、その人間のせいにして終わらせてしまうのではなく、任せたこと自体が自分の失敗として受けとめて検証するべきです。必ず見えてくることがあります。事実は変えられないのです。自虐的にならず冷静な気持ちで客観的に検証して下さい。そうした努力が新しい計画に活きてきます。地道な努力を継続出来る人には必ずチャンスが訪れるのです。

2014年2月18日火曜日

フィリピンでのフードビジネス・コンサルティング(その弐)

「その壱」ではプレ・マーケティングの基本戦略についてお話しました。今回はレストラン・ビジネス形態や店舗進出地について考えていきます。
(レストラン・フランチャイズやカート(屋台式)フランチャイズについては、オーナーが直接契約すれば済むことですので特にコンサルティング記事にしません。詳細を知りたい方は直接ご連絡下さい)


フィリピン・レストランビジネスの概要を知ること
始めにオーナーがビジネス知識として知っておくべき形態、市場シェア、エリア、将来性について述べていきます。

レストラン形態
先ず形態についてですが、ロンドンにある世界有数のマーケティング企業Euromonitor International Ltd.の最新調査によると、フィリピン全土の外食店舗数は約10万店、その内訳はフランチャイズ系が25%を占め、残り75%はインディペンデント(独立経営)系です。しかしこれらの総売上計上額では、フランチャイズ系が70%、インディペンデント系が30%となっており、フランチャイズ系が圧倒的に優位であることが分かります。

レストラン市場シェア
市場シェアで見ると、本格レストランが20%、ファーストフード25%、カフェ&バー25%、ホットドッグ、アイスクリーム、ドーナツ、ドリンク等単体商品販売のキオスク系が25%、テイクアウト&デリバリー系3%、その他2%です。この3年間の推移ではファーストフードとキオスク系がやや増加、本格レストラン系がやや減少、その他は変わらずとなっています。カフェ&バーは増加しているように思えますが、反面廃業している数も多いのでこのようなデータとなっています。

レストラン売上シェア
一店舗あたりの2012年の年間売上額ではファーストフード1,800 万ペソ、キオスク系200 万ペソ、市場全体平均では一店舗あたりの年間売上額は約440 万ペソです。フランチャイズ系企業別で見ると売上シェアは、Jollibee Foods Corporationが40%強と圧倒的強さを誇っています。それに続くMcDonald's Companyは10%以下に過ぎません。

またジョリビーは単なるブランドではなく、チョウキン(Chowking)、グリニッチ(Greenwich Pizza)、レッドリボン(Red Ribbon)、マンギナサル(Mang Inasal)、バーガーキング・フィリピンズ(Burger King Philippines)などを次々と買収し傘下におさめるアジアで最も巨大なフードビジネス・グループ企業の一つなのです。

フランチャイズ系はローカル系で70%が占められ外国企業ライセンスのフランチャイズ系は30%です。この数値でも日系を含めた外国系が苦戦しているのが分かると思います。日系の中ではミスタードーナツが一番の売上シェアですがそれでも約2.5%です。

つまりはジョリビーグループの一人勝ちで、私達が生きている内にこの序列が変わることは100%ないでしょう。

一方フィリピン国内の市場規模に目を移せば、2012年における外食市場は約3,700億ペソ、産業成長率は2005年の12%をピークに年々減少傾向にあり、人口が増加しているにも拘らずここ3年間は成長率1~2%に留まっています。


レストラン・エリア
次にエリアに関してですが、一般家庭(除貧困家庭)の約10%が、月世帯収入の約30%をNCRでの外食にあてています。その次に高率なのがCALABARZONとCENTRAL LUZONです。もしモールやショッピング街に出店を考えるのであれば第一選択エリアはこの3地域となります。

将来性のあるターゲットの特定
またターゲットを企業勤務の社員や学生とするのであれば、最も効率的に集客できる朝食、昼食、デザートにメニューを絞った戦略を取ります。これは学生たちの登校前/昼食時、そして社員たちの出社前/昼食時の外食率が増大しているからです。特にNCRでその傾向が顕著で約70%がその食事行動を取っています。

しかし一方ではそれ以外の時間帯での食事、特にレストラン系での食事となると、学生8%、社員6%が朝食・昼食以外で利用しているに過ぎません。日本人オーナーがこの点を十分に認識せずに、思い込みのコンセプトやメニューの優位性だけで出店すると間違いなく失敗します。日本とフィリピンではレストランニーズが全く異なるのです。日本のような居酒屋やクラブなどは、、まともな生活をしているフィリピン人には無用の長物でしかありません。

学生たちの登校前/昼食時、そして社員たちの出社前/昼食時で約70%を占める。学校や仕事が終われば家族が待つ家に帰宅するだけ。ここに日本人の大きな勘違いがあるのです。そして高すぎず安すぎず、毎日来店しても飽きない素材を活かしたメニュー開発が求められます。


市場としての将来性が著しく高くなるBPO進出エリア
市場の将来性としては、BPO産業の進出候補地である都市にそれを求めるのも一考の余地があります。

                   カビテ州バコール市(Bacoor, Cavite)、ラグナ州サンタ・ロサ市(Sta. Rosa City, Laguna)、バタンガス州リパ市(Lipa City, Batangas)、ブラカン州マロロス市(Malolos City, Bulacan)、ベンゲット州バギオ市(Baguio City, Benguet)、イロイロ州イロイロ市(Iloilo City, Iloilo)、ミサミス・オリエンタル州カガヤン・デ・オロ市(Cagayan De Oro City,Misamis Oriental)、などがBPO企業の参入によりこれから一層の発展が期待できる都市です。しかしながら主だったフランチャイズは既に進出を果たしているため、新規参入店は競合店との価格やメニューなどでの優位性を争うことになるでしょう。


この先はプロのコンサルティングが威力を発揮する
さて必要知識が理解出来たところでこの先はコンサルティングになります。しっかりとしたマーケティングを行いエリアが決まったら、具体的な出店計画を考える段階になりますが、一番重要なことは何を基準条件に決めるのかということです。

優位性が非常に高い自費店舗建設
レストランなどの経営が未経験の人は、出来ればこれは最初の基本戦略を練る段階で安易にテナントのレントと決めてしまうのではなく、小規模であっても立地を購入し店舗建設の方向を模索するのがベストです。規模が小さければ当然少人数で開店できます。しかしこれは優位性に繋がることなのです。スタッフを家族だけで始めることもできます。居住も出来るものを建設すれば移動する必要もなくなりますし、仕込みや閉店後の清掃なども楽になります。スタッフを外部雇用するのであれば、開店まで半年近くはスタッフ研修をしなければなりません。家族ならばこの期間を半分以下にすることが出来ます。その中でマネジメント能力がある家族の見極めをすればいいのです。特に開業して半年くらいはそれで対応していきます。

テナントを賃貸する場合は慎重に
テナント物件を借りる場合は以下の点に注意します。

1.営業権付きの物件には絶対に手を出さない。
主にマラテやエルミタの繁華街物件になりますが、営業が立ち行かなくなった店主が営業権を売ると言って話を持ちかけてくる場合があります。物件自体のオーナーは別なので物件を賃貸している身分のくせに、好立地をエサに営業権買取を吹っかけてきます。これは営業権転売ビジネスと言ってこの最悪エリアでは騙される人が続出していますので、オイシそうな話があっても絶対に相手にしないことです。儲かる確信があるのならばお前が自分でやれという次元の低い話です。

2.建設中のコンドミニアムへの居住者客などをあてこんだ周辺テナントやモール付きコンドミニアムのテナントはスルーする。
フィリピンのコンドミニアムは投資ビジネスであり居住するものではありません。登記期間中の納税前に販売できれば大きな利益になりますが、売れなければ賃貸にまわすしかありませんが借り手優位市場になります。このコンドミニアム投資バブルもあと2年ほどで終焉を向かえ、完成したコンドミニアムは借り手も付かずゴーストマンション化していきます。借り手をつけるために賃貸料を下げれば居住者の質が悪化します。悪党の巣窟化となることも有り得るのです。そのような場所にでも出店するのは騙されやすい日本人だけです。

3.モールブランドに騙されない。立地が悪いテナントなら断る。
たとえ高級モールであっても簡単には出店許可審査は通りません。人脈がなければ何年も何箇所もまわってもなかなか許可してもらえないこともあります。そして許可が出たと思ったら客の動線がない悪条件であったりもします。自分の戦略に自信を持っているのならば無理に悪条件の中に出店する必要はありません。条件が悪いところは断るという勇気もオーナーの資質なのです。出店したいモールがあれば店舗状況を常に観察しておくことです。悪立地のテナントはすぐに潰れています。そして閉店直後に「SOON TO OPEN」の案内が貼り出されています。条件が悪いところはこれを繰り返しているのです。

4.居抜き物件の賃貸はメリットとデメリットを考慮し、できれば手を出さない。
居抜きは上記のような営業権付き物件でなければ、コストが比較的安く済み短期間で営業開始が出来るというメリットがあります。しかしインテリアデザインをそのまま利用するのであれば、基本戦略で考えたコンセプトを捨てることにもなります。これをコンセプト通りにしようとしたら結局コストがかかるため、居抜き物件を選んだ意味がなくなります。そのために前店も同じようなレストランで共通点が多ければいいのですが、全く異なるものの場合は問題があります。たとえばカレーや焼肉など匂いの強い料理を扱った店であれば、その匂いを除去することも一苦労になります。前店が同様の料理を出していたならば、そのイメージは簡単には変えにくいということもあります。また最大のデメリットとして考えられるのは、器具や備品の保存状態が悪かったり、店舗自体が老朽化していることが多いということです。

出店エリアマーケティングの際の視点
物件選びでマーケティングするのであれば、第一にそのエリアでの男女別人口、世代別人口、企業数と従業員数、学校数と学生数、店舗予定地での通行量、アクセス手段と交通機関利用者数を調査します。そして店舗候補が交通機関のメインとなる乗降場所から認識し易いかどうか、様々な角度から見る必要があります。

第二には競合店の存在確認です。同じようなメニューを持つ競合店の有無は実際に客としてチェックします。競合店の有無にはそれぞれメリットとデメリットがあります。

競合店がある場合の考え方は、競合エリアに出店し他店の集客に便乗することです。これはフィリピンでは普通に見られる光景です。ある店が繁盛しているとその周辺に同じような店舗が、どんどんと増殖してくるのがフィリピンなのです。それに対し誰も文句をつける人間はいません。他店を利して集客し、自店は優位性があり差別化したメニューやサービスを提供すればいいのです。ただし一人勝ちを目指す必要はありません。競合エリアごと発展できればOKと考えることです。数ヶ月もすれば勝者と敗者がはっきりしてきます。

競合店が無い/少ない場合についてですが、こちらの方が前者よりもはるかに慎重なマーケティングが必要になります。その際先ず第一に自店がそのエリアで一番乗りであるのか、すでに出店されたが何かの理由で閉店となったのかについて調べます。その結果で立地が悪いのか、メニューの組み合わせが悪いのか、その両方なのか、何故出店しないエリアなのかについて調べます。出店エリアには必ずそういった二面性の存在を認識する必要があるのです。


その参に続く